My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
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「リッチモンド伯爵について?あの貴族は此処いらじゃ有名だぜ」
仕事休憩の一服とでも言おうか。
港で掻いた汗を拭きながら、刻み煙草を噛む男は興味深そうに雪に目をやった。
「知っていること、色々聞かせてもらってもいいですか?」
心地良い潮風が吹く晴天の船着場で、同じに晴れ晴れとした笑顔を向ける雪が問い掛けることは一つ。
イノセンスへと繋がるであろう、リッチモンド伯爵のことだ。
「いいけど…なんだい、あんたも社交界で伯爵狙いかい?」
「舞踏会のことですか?近々開催されるらしいですね」
「あれだけの金持ちさ、財産目当てで取り入ろうとする女は多い。しかしあんたは……もう少し良い物で着飾らないと、華が足りねぇなぁ」
「放っといて下さい」
「そういう可愛げないことも言っちゃいけねぇ。貴族の男ってのは、黙って後ろを二歩下がってついてくるような女が好みさ」
「アハハ、じゃあ尚更願い下げですネ」
「そうかい?女ってのは本性を現せば皆末恐ろしいもんよ。あんただって───」
「願い下げつってんのがわかんねぇのか、テメェの耳は節穴かよ」
嫌味な笑顔を貼り付けたまま茶化してくる男に、不意にぬっと雪の背後から現れた高い背丈が立ち塞がってくる。
「ち、ちょっとユウ」
「おお?あんたは素材がいいなぁ!そのくらい美人なら伯爵も目を止めるだろうよ」
「…あ?」
「げ」
強面と思われても可笑しくない表情をしていたが、それでも男に神田は美形、否、美女に映ったのだろう。
神田の額に青筋が浮かぶのを見た雪は思わず唸る。
悪い予感しかしない。
「身形は可愛げねぇが、そこそこのドレスでも着飾れば映える顔だ。背は…でけぇなぁ。モデルでもやってん」
「…ねぇ」
「あん?なんだって?」
「俺は、女じゃ、ねぇ!」
「ゲフぶゥ!?」
「わーっ!ユウストップ!ブレイクブレイクー!」
案の定、ぶちんと血管を切らせて拳を振るう神田を、後ろから羽交い絞めのように雪が止める結果となった。
それでも握り拳は男の頬へと既にめり込んでいたが。