My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「お前こそガキだろ、何玩具で遊んでんだ」
「ぃたた…もう…玩具じゃないよ、ライター。火を起こせる道具は任務先でも重宝するんだから」
彼の機嫌が悪いのは、朝から充分程心得ていたこと。
解放された耳を擦りつつ、大して気にすることなく雪はライターの底の装飾にある小さな穴に目を止めた。
足元に置いていたファインダー用の荷物を漁ると、取り出したのはなんてことはない小さな紐。
穴に通して長めに輪を作り首から下げれば、満足そうに笑う。
「リヴァプールの建物って、民家はロンドンと大して変わらないけど、お屋敷とか大聖堂は造りが凝っててお洒落なんだよね。このライターも同じで、装飾が綺麗」
光沢感ある天鵞絨に、緩やかな曲線を不規則に描くマーブル柄。
一見して煙草の供であるとは思えない、洒落た造りだ。
尚且つ、火を起こせる道具は煙草以外でも様々な用途で用いることができる。
予想以上に良い物を貰ったと頬を緩ます雪に反し、神田の眉間の皺は1mmも緩まなかった。
「良いお土産になったかな」
「観光かよ。仕事しろ。お前の任務は一向に進んでねぇじゃねぇか」
「わかってるってば。イノセンスの探索はAKUMA討伐とは訳が違うの。一日で結果出ることなんて稀だから」
危険度はぐっと下がるが、だからと言って遂行難易度が低い訳でもない。
探索活動こそ、時間と体力を有する根気のいる仕事だ。
「ってことでアレン。少しの間、ティムキャンピー貸してくれる?」
「え?ティムですか?いいですけど…なら僕も手伝いましょうか」
「ううん、ティムだけで大丈夫。アレンは怪我してるんだから、ゆっくり休んでて」
脚を下げ椅子から降りると、外野と化していたアレンに声をかける。
雪の言う通り、彼らの会話はきちんと耳に入っていたらしい。
ぽちょんと愛想よく肩に乗る金色のゴーレムを指先で撫でると、雪は疲れた様子など見せずに笑った。