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My important place【D.Gray-man】

第47章 リヴァプールの婦人



「…?」



感じた違和感は、掌の中だった。
雪の視線が手元へと下る。
そこには青年を縛り上げた縄が握られていた。



「っ…(まさか!)」



奇妙な違和感は、急に力が抜けたような感覚だった。
縄の先は青年へと繋がっている。
はっとして振り返った雪の目に映ったものは。



「しまった…!」



地べたに力なく横たわる、縫い目の解けた縄。
それだけを残し青年の姿は忽然と消えていた。



「逃げられた!」

「えっ嘘!?」

「いつの間に…」



暗いが疎らに人の行き交う街路。
咄嗟に辺りを見渡し進むも、雪の目に燃えるような赤毛は映らなかった。



「私達が目を離したのは一瞬だったのに…早業なんてものじゃないわね」

「切った焼いたの跡はありませんね、綺麗に解けてる。手首を抜いた訳でもないのでしょう」



唖然と人々を見つめるリナリーの隣で、縄を取り上げ観察するトクサの言う通りに、縄には一切外傷など見当たらない。
手首を抜こうと身動げば、縄を握っている雪が気付くだろう。
元よりファインダーとして相手を拘束する為の技術は心得ている雪のこと、素人の結び方などしないはず。
そうして皆の目が老人に向いた時、まるでその場から消えるように姿を暗ませた青年。

人の行き交う街路で一人、雪は盛大に項垂れた。



「イノセンスの重要参考人だったかもしれないのに…っ」



すっぽりと雪達の記憶だけ抜けていたのは、もしやイノセンスが関係しているのかもしれない。
そうであれば、イノセンスの手掛かりとなる人物を取り逃がしてしまったことになる。



「…儂の所為かのう?」

「ニャア」



猫を抱き上げ問い掛ける老人に、腕の中の小さな友はどうとも取れない返事をひと鳴き。



「何やら迷惑を掛けてしまったようじゃの」

「ああ、いえ。お爺さんは悪くないですから…」



項垂れる雪に歩み寄り、優しい笑みを向けてくる。
綺麗なブルーの瞳を見返して、雪も力なく笑顔を返した。

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