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My important place【D.Gray-man】

第47章 リヴァプールの婦人



(彼、嘘ついているように見える?)

(うーん、どうだろ…トクサは?)

(怪しい人物なのは確かでしょうね)

「そこ、三人だけでヒソヒソ話しないでくれるかなー。寂しいから」



三人で顔を突き合わせて相談しようにも答えは出ない。
縄で拘束されていようとも飄々と余裕の残る青年に、雪は仕方なしにと再度目を向けた。



「じゃあ聞くけど、私達のことは知らないんでしょ?」

「まぁね」

「赤の他人なら、なんで声を掛けた時に怪しげな態度取ったの?あれじゃ疑って下さいって言ってるようなもんでしょ」

「あれは…」

「あれは?」

「ニャッ」

「あっ」



何を言おうとしたのか。
青年が口を開き曖昧な沈黙を作った時、雪の腕の中で身を捩った猫が唐突に飛び出した。
小走りに駆けていく先は、青年の下ではない。
雪達の視線が追う中、猫は一人の人物の足元で止まった。



「ほっほ、こんな所にいたのか。捜したんじゃぞ」

「ナウー」



ちょこんと尻を落とし猫が見上げる先には、長身の老人が一人立っていた。
既に空は暗くなり街灯の照らす道で、銀色に煌く見事な長い髪と髭が主張している。
半月型の眼鏡の中から覗く、これまた煌くブルーの瞳がじっと猫を見下ろしていた。
どうやら言葉の端々からして、猫の主人である例の老人らしい。



「ニャアウ、ニャウ」

「ふむ。儂の友を助けてくれたのは、君達かね?」



リッチモンド邸の使用人の言う通り、闇に同化しそうな足元まで続く長いマントだけを身に纏った姿は、決して身分の高い者のようには見えない。
猫の鳴き声に頷くと、徐に老人は顔を上げ雪達を見つめた。



「あの人も猫と会話してる…」

「なんでしょう、この街には変人が多いんですかねぇ」

「こらトクサっ」

「構わんよ、急に声を掛けたのは儂なのでのう」



ほっほっと穏やかに笑う老人は、人当たりの良さそうな顔をしている。
物珍しそうなリナリーの視線も、トクサの遠慮ない物言いも、大して気にしていないようだ。



「でも…あの、その猫ちゃん。あそこの屋敷に迷い込んで……て?」



申し訳なさそうに雪が説明を続けようとすれば、その声は不自然に途切れた。
奇妙な違和感のようなものを、そわりと感じたからだ。

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