My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「わかりました、今日の所は引き上げます。彼も警察に届けなきゃいけないし」
「待ってくれよ、何も盗んだりしてないのに」
「いや、それもよしてくれないか。舞踏会を控えてるんだ。変な騒動は遠慮願いたいんでね」
「……わかりました」
変にリッチモンドの気を荒立てては、次はない。
絵画がイノセンスであるか、その調査もできていないのだ。
またこの屋敷には伺う必要がある。
その為にもと、雪は大人しく従うことにした。
「───まぁ、ハナから警察署にしょっぴく気はなかったけど」
「え、それ本当?」
「情けのつもりでもないから、変な期待はしないでね」
リッチモンド邸を後にした一行の足は、警察署へとは向かわなかった。
思いも掛けない雪の言葉に青年の顔が明るく染まるが、生憎同情心などではない。
「あの場で何をしていたのか、色々聞きたいこともあるし」
「尋問ですか?ならぜひ私に」
「え」
「何その嬉々とした表情。怖がってるでしょやめて」
謎の胡散臭さが残る青年。
彼に警察の代わりに聞きたいことは色々とある。
尋問ならばと笑顔で名乗り出るトクサに、青年は咄嗟に雪の背後に身を寄せた。
「痛いことはしないよ、ちゃんと答えてくれるなら」
「こんな扱い受けてる時点で、信憑性ないけどなぁ…」
振り返り安心させるように声を掛ければ、肩を竦めた青年もまた振り返る。
彼の背中では、両手首がしかと縄で結ばれていた。
「あの場から連れ出す為だから仕方ないでしょ。リッチモンド伯爵が煙たがったのは予想外だったけど」
「…やっぱり雪もそう思う?」
「うん」
遠退く豪邸を見送っていたリナリーが、意味深に問い掛ける。
その表情には雪も賛同した。
恐らくリナリーが感じた不信感は、自分も同じに感じたと。