My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「凄い…けど、なんか…」
最初こそリナリー同様、目を見張っていた雪。
しかしまじまじと飾られた絵画達を見ていくと、その不気味さが感じ取れてきた。
ある絵は、首を跳ねられようとしている女性の処刑場面。
ある絵は、複数の赤子が息絶え地面に転がっている様。
ある絵は、我が子を食らう神の姿。
よくよく見れば、どの絵も風景や歓喜を求めた絵ではなく、人の醜さや生々しさを表したものばかり。
絵画自体は美しいものも多いが、内容は暗いものが多い。
薄暗いスポットライトの中で見るとなると、より一層不気味さが増す。
「美しいだろう?私は外見だけ美しいものには興味ないんだよ。そのものの持つ意味の奥深さや感情にこそ、美は根付くと思っている」
「はて。意味、ねぇ…」
「怨みや怒りや嫉妬、欲望と言った感情は裏を返せば一種の愛情だ。私はそういう人として持つべき感情が愛しくて止まないんだよ」
「…怨みや怒り、か…」
興味なさげに呟くトクサの隣で、雪もまたぽつりと呟いた。
目を背けたくなるような絵画ばかりだが、後世に伝わる程に周りから賞賛を受けたのも事実なのだろう。
それはリッチモンドが言うように、その負の感情に価値を見出されたからなのかもしれない。
「でもこれだけの数、見て回るとなると時間が…」
「ああ、そこは問題ない」
「え?」
「君達が目的としている絵画は、恐らくあれだろうからさ」
ううん、と雪が首を捻れば、リッチモンドは一つの絵画を指し示した。
2m程の高い位置に飾られている絵画は、一人の婦人と赤子が描き出されている。
「画家はアントワーヌ・ヴィールツ。題は"飢餓・狂気・犯罪"」
「わー…凄い題名」
「でもそんな絵には見えないけど…?」
「よく見てごらん、お嬢さん。彼女が抱いている赤子の布着が血で染まっているだろう?」
リッチモンドに指摘を受け、リナリーの目が悉に絵画を観察する。
情景は、とある民家の台所らしい。
石造りの裸の竈は、裕福な暮らしはしていないことを連想させる。
何も入っていない空の壺や袋が散乱する中、婦人は布で包んだ赤子を膝に抱き、手には刃物のような物を持っている。
赤子の顔は布で隠れて見えない。
しかし下半身の布は僅かに血のようなものを纏わり付かせているようにも見えた。