My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「少しやり過ぎなんじゃないですか?怪我でもしたら…」
「怪我はしなかったじゃないか、なら別に問題ないだろ」
「………」
「な、なんだその顔は…」
「リナリー、大丈夫だよ。にゃんこは無事だったし」
「心配してるのは猫だけじゃないよ。雪にも怪我させたら、私怒るんだから」
「…リナリ…」
「何頬染めてるんですか貴女気持ちの悪い」
「ハイそこ黙って」
むっと眉間に皺を寄せるリナリーの目は、若い使用人を睨む。
その可憐ながらも心強い背に雪が胸を鳴らせば、トクサの呆れた顔が横入りした。
時にそこらの男よりも筋を通した強さを持つリナリーに、胸を鳴らして何が悪いのか。
雪がジト目を向けようとも、狐顔の彼は釈然としないまま。
「やれやれ。玄関先でいざこざなんてごめんだよ。それじゃあ、私は忙しいので」
「っ待って下さい!ならアポを取りますっ舞踏会の後でいいので、空いた時間を作ってくれませんか?」
背を向け屋敷内に引っ込もうとするリッチモンドに、慌てて雪が一歩踏み出す。
「何をそんなに話したいんだい」
「動く絵画についてです」
彼女のその言葉に、ぴたりとリッチモンドの足が静止したのをトクサは見逃さなかった。
「やはり何か知っておられるようですね。それを拒否するとなれば、黒の教団に楯突くということでよろしいですか?」
「ちょっと待ってトクサ、そんな脅しみたいなこと…っ」
「それくらい言わないと話が進まないでしょう。私達は慈善団体じゃあないんですよ。さぁ、どうされますか」
「…やれやれ…」
溜息一つ。
口元で整えられた髭を撫で付けながら、リッチモンドは仕方なしに振り返った。
「良いだろう、そういう話なら早い方が良い。舞踏会後も後片付けで何かと忙しいのでね。今からその動く絵画とやらを見せてあげよう」
「え?」
「本当ですかっ」
「ただしその猫は置いていってもらおう。また我が家を彷徨かれては困るのでね」
「わかりま」
「ニャアウ」
「……痛い」
思いもかけず棚からぼたもち。
意外な結果にリナリーと雪が食い付く。
即答で頷く雪だったが、しかし腕に抱いていた猫は突如両前足で目の前の胸にしがみ付いた。
食い込む爪が地味に痛い。