My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「そこをなんとか、話だけでも…」
「私にも私の都合があるのだよ。話をしたいなら前もってアポイントメントを取っておくのが筋ではないのかい?」
(ごもっともで)
穏やかだが有無言わさないリッチモンドの意見は、ある意味正論だ。
まじまじと美しく手入れされたブロンドを見上げながら、雪は内心頷いた。
それでも簡単に退く訳にはいかない。
「失礼ですが、私用と言うのは?私達に何かお手伝いできることがあれば、ぜひ」
「はは。気持ちはありがたいけどね、使用人達だけで充分だよ。毎月行っていることだから」
「毎月、と言いますと…」
「舞踏会さ」
「「舞踏会」」
聞いたことのあるフレーズだが、貴族出身ではない雪やリナリーには縁のない話。
一種の夢の出来事のようなフレーズに、思わず二人の声が重なる。
「知人や近隣の者を招いてね。貴族の間で嗜む行事だから、君達には関係のない話だろう?」
「それはそうですが…」
穏やかにやんわりと断られながら、雪は零れそうになる溜息を呑み込んだ。
見た目には好印象の男性だが、やたらと引っ掛かる言い草だ。
これでは午前中に神田が胡散臭いと言い放った赤毛の青年の方が、まだ友好的に思えた。
「さぁ、わかってくれたならお引き取り願うよ。今日はやけに訪問客が多くて参るな、全く」
「私達の他にも?」
「ああ。早々出て行ってもらったんだが、猫が屋敷に迷い込んだと言って聞かなくて───」
「旦那様!」
やれやれと肩を落とすリッチモンドの声を遮る、慌ただしい足音と声。
おまけに獣の威嚇するような騒ぐ声も聞こえる。
「見つけました!例の猫です!」
「「猫」」
余程捕まえるのに苦労したのか、玄関に走り出てきた使用人の顔や体には引っ掻き傷。
首を掴まれ暴れている、牙を剥き出しにした獣の所為だろう。
雪とリナリーがまたもや声を揃えた、正に渦中の存在であった縞々柄の猫が一匹。
「本当に迷い込んでいたのか。迷惑な話だ」
「本当ですよ!こいつ凶暴で捕まえるのに苦労…アイタタ!」
「シャー!」
毛と爪を立てて威嚇する様は、余程ご立腹らしい。
首を掴まれ宙ぶらりんの状態では、凶暴にもなるだろう。