My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「本当にそんな絵画があるなら、夜通し監視しなきゃいけなくなるのかなぁ…」
「雪、顔色悪いよ?」
「そりゃ悪くもなるよ…」
一体どんな絵画なのか。
目の当たりにするのも億劫だ。
「それを確かめに来たんでしょう。つべこべ言わずに行きますよ」
「あ」
「ちょ、待ってトクサっ」
恐怖に慄く雪に呆れの溜息一つ、先頭を切ったのはトクサだった。
大きな門を潜り、階段を上がれば両開きの煌びやかな玄関扉が佇む。
丁寧に彫刻された獅子の口に咥えられた丸いハンドル、ライオンノッカーをガチガチと叩き押した。
「すみません、黒の教団の者ですが。お話を伺えないでしょうか」
トクサの声にやがて玄関扉の中から姿を現したのは、使用人と見受けられる燕尾服姿の高齢の男性。
老人と言っても過言ではないが、身形の良さからか老け込んでは見えない。
「はい。何方様でしょうか?」
「黒の教団の者です」
「黒の教団?」
トクサの言葉を復唱する声は、知らぬ故のものには聞こえない。
まじまじとトクサの姿を検めてくるところ、名は知っているようだ。
となれば話は早い。
雪が目線を交せば、一つ頷いたリナリーがトクサの前に踏み出した。
「これが証のローズクロスです」
「おぉ…それは正しくヴァチカンの…!」
「リッチモンド伯爵とお話させて貰えないでしょうか」
黒の教団は巨大なヴァチカンが築く一組織。
その名が轟いていない密林の奥深くにある集落などならまだしも、この有名な巨大都市で貴族を名乗る者に知らぬ者はそういないだろう。
案の定、頼み込めばすんなりと話は通して貰えた。
───しかし。
「申し訳無いが、今は私用の準備で忙しいんだ。お引き取り願えないかな?」
この屋敷の当主だと名乗り出てきた男は、中年の身形正しい男性だった。
白に近いシルバーブロンドの髪をオールバックにかちりとまとめ、青い瞳もアルビノのように薄い。
眉を下げながら向けてきた言葉は、穏やかではあるが拒否するもの。
ウィリアム・リッチモンド伯爵は、黒の教団という名を耳にしてもリナリー達を良き訪問者として迎えなかった。
一筋縄ではいかない相手らしい。