My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
✣ ✣ ✣ ✣
「言われれば胡散臭い気もしないけど…でもあんまり悪い人には見えなかったけどなぁ…」
「そんな呑気なことを言ってると、タチの悪い輩に騙されますよ」
「でも私も、リナリーと同じで悪い人とは思えなかったけど」
「そんな阿呆なことを言ってると、同じに頭の悪い輩に絡まれますね」
「何その扱いの差。私にだけ悪口?」
「そんなこと言ってません」
「言ってます」
涼しい顔で毒を吐くトクサに、ジト目で噛み付く雪。
そんな二人のねちねちとした言い合いを前に、リナリーは苦笑しか浮かべられなかった。
神田の鋭い勘が捉えた胡散臭い赤毛の青年。
しかしアレンの左眼は、青年がAKUMAではないと判定していた。
となれば任務とは無関係の者だろう。
程なくしてAKUMA討伐へと向かうアレン達と別れ、雪とリナリーとトクサは一つの豪邸へと赴いていた。
陽はもう暮れ、闇に染まりつつある夕日が大きな屋敷を照らしている。
イングリッシュガーデンと言えば煉瓦の壁が主となる。
それ程イギリスに定着している家の造りだが、目の前の屋敷は白に統一された岩肌が凹凸に積み上げられていた。
所謂フリントンストーンと言われる、イギリスで古くから使用されている伝統ある石造りである。
「それより着きましたよ」
「リッチモンド伯爵の館…だったかしら」
先頭を歩くトクサの足が止まる。
同じに歩みを止めたリナリーの目に映し出された、大きな屋敷。
一目見て位の高い、高貴な者の所有物とわかる。
今回のイノセンスであろう怪奇は、この屋敷からの情報源だった。
「本当にあるのかな。動く絵画なんて」
ぽつりと呟く雪の声には、少しばかり不安が感じ取れた。
ウィリアム・リッチモンド。
伯爵の位を持つ男が所有している、この屋敷の奥底に保管されていると言われるとある絵画。
そこに描かれている人物が、夜な夜な人目を避けて動き出すのだとか。
朝を迎える度に立ち位置が変わる人物像の噂が後を絶たず、やがては黒の教団の耳にまで届いた。
絵画に纏わる怪奇現象では、然程珍しくもない現象。
しかしそれが実在するとなれば、不気味にも感じるというもの。