My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「チッ…お前らの耳は節穴かよ。ちゃんと五感使ってろ、今は任務中だ」
「言われなくても使ってますけど?」
「どうだか」
目の前の青空から意識を逸らすように、視線を下げると冷たく吐き捨てる。
は、と馬鹿にしたような溜息で神田はトクサを一蹴した。
「なら気付くだろ、あいつの胡散臭さに」
「胡散臭いって何が」
「物言いだ」
「物言い?」
傍で首を傾げる雪に目を向けることなく。
黒い眼は、じっと青年の消えた人混みへと向けられていた。
「あいつ、蛙をペットだなんて言ってた癖に、物扱いしかしてなかっただろ」
「───あ。いたいた」
足取り軽く進む色褪せた靴が、ぴたりと止まる。
燃える赤毛の頭をぴょこんと突き出し、青年は見知った顔に手を振った。
「おーい!」
「ああ、やっと見つかった。あれだけ単独行動はよせって言ったのに」
ぴょこぴょこと走ってくる赤毛に目を止めたのは、彼と歳の変わらない青年。
やれやれと肩を落として大袈裟なまでに溜息をつく。
「先生に見つかったらどうするんだよ」
「まぁそう言うなよ、落とし物は見つけたんだから」
「本当か?」
「ああ。危うく拾われる所だったけど。間一髪ってやつさ」
「拾われるって…まさか、人間?」
「あれは流石にヒヤッとしたなぁ」
人懐っこい笑みを僅かばかり苦笑に変える。
そんな赤毛の彼を前に、青年はふと"それ"に気付いた。
「見つけたのはいいとして、それ」
「ん?…あ。」
それ、と指さされた先は握りしめていた左手の拳。
逸れていた意識を向ければ、掌の中に感じていたはずの生き物の動作がない。
恐る恐る掌を開いてみれば、ぬちゃりと指の隙間から滴る液。
「ありゃ」
手の中に広がっていたのは、先程まで蛙であったもの。
握り締められた圧迫で潰れてしまったそれは、最早生き物の形を保ってはいなかった。
ぱちりと瞬く緑がかった目。
掌の上で潰れた蛙を見下ろすと、青年は肩を竦めた。
「あーあ、おやつが台無し」