My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「店主さん、品物触っても大丈夫ですか?」
「ああ、いいよ」
「よかったね、テワク。身に付けていいって」
「だから、わたくしは別に…」
「色はやっぱり赤?臙脂色ね、私も好きな色なんだ」
「ち、違いますわ!」
「じゃあどれ」
「これですの!」
(あるんだ)
(であるな)
本日二度目。
雪に促されるまま急いでテワクが手にしたのは、目の前にあった装飾品。
「ケコッ」
「け?」
「こ?」
その装飾品から響く音に、きょとんと雪とテワクの目が向く。
音付きの腕輪などあるのだろうか。
二人の目に止まったのは、テワクが手にした腕輪。
の、上に張り付いていた一匹の生物。
泥にでも塗れていたのか、全身茶に染めた小さな両生類が、ぷくりと頬袋を膨らませて鳴いた。
「ゲコッ」
「なんで蛙───」
「きゃぁあぁあ!?!!!」
「!?」
笑いながら手を伸ばそうとした雪とは真逆に、突如として高い悲鳴を上げたのはテワクだった。
その叫び声に驚いたのか、腕輪に張り付いていた泥塗れの蛙が、びよんっと大きく跳ねた。
結果。
「あ。」
「ひゃあ!わ、わ、わたくしの髪に…!?」
ぴとりと飛び付いたのは、テワクの見事なブロンド。
「だ、大丈夫?テワク。ただの蛙だから───」
「何事ですかッ」
「あ、トクサ。テワクの髪に蛙が飛び付いちゃって」
まさか両生類相手に、ここまで慌てふためくとは予想外。
驚きながら伝える雪に、血相を変えて飛んできたトクサは、ほっと胸を撫で下ろした。
「ああ…蛙はテワクの苦手な生き物なんです」
「そ、そうなの?…可愛いところあるんだね」
「何を当たり前なことを」
「あ、そう…(…テワク馬鹿か)」
仲間思いと言うよりは、コムイのリナリーへのシスコン具合のように、盲目な愛があるのかもしれない。
半ば呆れながらも、まずは目の前のテワクを宥めるのが先だと、雪はトクサと共に歩み寄った。
「落ち着いて、テワク。そんなに暴れたら蛙取れな」
「おおお落ち着いてますわ!だっだ、だから早くこれをどうにか…!」
「…うん。じゃあジッとしてくれないかな。そんな反復横跳びされたら捕まえられないから」
どうやら余程苦手らしい。