My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「景色も良いし、大きな街だし。つい足を止めたくなっちゃうよね」
同じく辺りを見渡す雪の眼下には、港湾都市ならではの船着場も見渡せる。
新鮮な魚が次々と市場に流れ込んでいく様は見応え充分、そこですぐに料理された鮮魚も頂けるのだから観光客の姿も多い。
アレンが両腕に抱えていたフィッシュ&チップスもその一つである。
「少しくらいなら構わないであるよ」
「うん、ありが」
「構わなくありません」
穏やかに微笑むクロウリーに、笑顔を返す雪。
二人の間に流れるほのぼのとした空気を断ち切ったのは、冷たい否定の声だった。
「華やかに見えるのは表の顔。此処が栄えた理由に、奴隷貿易を行っていたという負の歴史もあります。見た目だけに判断されないよう」
「奴隷貿易、であるか?」
「へー、リンクさん物知りだねー」
「呑気に感心しないで下さい。此処には任務で来ているのでしょう」
「うん、まぁ。そうなんだけど」
アレンがいるならば監視役のリンクが付いていても不思議ではない。
そしてそれは雪にも同じことで。
「やれやれ、こんな状況だから我々が中央庁から出向く羽目になるんですよ」
「先が思いやられますわ」
雪の監視役であるトクサと、今回の任務参加が命じられたテワク。
サードエクソシスト二人のねちねちとした声が、雪の背後にチクチクと刺さった。
「(相変わらず嫌味だなぁ…)わかってるよ、でも今回の仕事は二つあるでしょ。現地着で一度体制整えてから、別行動すべきだと思って。特にテワクとは初めて組むしね」
「思いきり嫌がる顔で言われましても。説得力に欠けますねぇ」
「わたくしの任はAKUMA討伐ですわ。貴女とは組まないので関係ないのでは?」
「(相変わらずほんっと嫌味)ハイハイ、ソウデスネ…」
平然とした顔でばっさりと切り捨ててくる緋装束の二人に、雪は肩を落としつつ素直に従った。
抗うだけ無駄だということは、リナリーのように心得ている。
この二人の嫌味癖は常備設定だ。