My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
多少気にはなるものの、深く突っ込んで良い結果が生まれるとは思えない。
特に今この場には、互いに"仕事"として訪れている身。
突っ込もうものなら「仕事をしろ」とでも一蹴されるだろう。
諦める雪の姿が覇気のないものに見えたのだろうか。
背を向ける神田とは裏腹に、雪へと歩み寄るもう一つの高い背丈。
「綺麗であるな、雪」
「え?」
「その首飾りである。見ていたであろう?」
「あ、うん…よくわかったね」
「偶々であるよ」
神田とは正反対に穏やかな笑顔を向けてくるのは、神田と同じロング丈の黒い団服に身を包んだ男性。
アレイスター・クロウリー三世。
「気になるなら、此処で買っても構わないである。それくらい大丈夫だから」
「でも、そこまで気にしてた訳じゃ…」
「身に付けるだけでもしてみたらどうであるか?私は、雪に似合うと思う」
「そう、かな…ありがと、クロウリー」
優しい催促は、少しばかり気恥ずかしい。
それでも嬉しそうに笑う雪を遠目に、神田は仏頂面を残したまま顔を背けた。
「あーあ、何あれ。男の風上にも置けませんね。クロウリーの方がよっぽど恋人らしいことしてる」
「アレン君、あんまり言っちゃ駄目よ。神田にそこまでの気遣いなんてできないから」
「でもあれじゃ雪さんが不憫過ぎます」
「そうね…雪にはクロウリーの方がお似合いかもね」
「おいテメェら聞こえてんぞ」
そっぽを向いた神田の後頭部に、投げ付けるかの如く飛び交う二つの声。
益々眉間の皺を深く振り返った神田の視線の先には、同じ団服に身を包んだエクソシストの姿があった。
歳の近い少年少女は、アレンとリナリー。
ギロリと睨み付けてくる殺気立った神田の目も、二人には効果の薄いものらしい。
両腕に抱えたフィッシュ&チップスを食すアレンの口は、もりもりと大きく咀嚼し止まる気配がない。