• テキストサイズ

My important place【D.Gray-man】

第47章 リヴァプールの婦人



✣ ✣ ✣ ✣


塗装された広い道。
空気中では少しばかり塩気の混じった海の匂いが漂う。
湾岸部が近い証拠だろう、港湾都市の名残りか行き交う人も多い。

天気は良好。
心地良い潮風を受けながら青い空を仰いだ雪は、気持ちよさげに伸びをした。



「んんー…んっ?と、と」



ぐぐっと体を反らして眩い太陽を拝めば、くらりと頭が微かに揺れる。
バランスを崩しそうになって、一、二歩後退った。
思わず額に手を当てるも、それ以上体の芯は揺れない。



(あれ?ノアの兆候…じゃ、ない?)



一瞬その類かと背筋がひやりとしたが、目眩は一瞬で終わった。
枷であるイノセンスも無反応のまま。
それでも安心はできずに、雪は額に手を当てたまま近くの屋根付きの出店に潜り込んだ。

日陰に足を踏み入れて、深呼吸一つ。
体に不調は見られない。
どうやらただの目眩だったらしい。
ほっと息を吐けば、視界に映り込んだのは出店に並ぶアクセサリーの数々。
オーダーメイドなのか、手作り感のある装飾は自然と目を惹いた。



(あ…これ、蓮の花だ)



ふと雪の目が止まったのは、蓮の花をモチーフにしたネックレスだった。
淡い桃色の小さな花模様は、雪の目を惹き付ける。

理由は一つ。
彼の記憶の一部である蓮華を思い出して。



「何道草食ってんだ」



暖かい陽の光を受けていた雪の背中が、太陽光から遮断される。
振り返れば、背後に立つ高い身長が大きな影を作り上げていた。
今し方思い浮かべていた、彼の姿だ。



「遊んでんなよ」

「遊んでなんか───怖っ」



逆光に立つ表情は少し暗いものの、眉間の中心にくっきりと皺が寄せられているのはわかった。
咎めるだけにしては仏頂面が酷い。



「そんなに怖い顔しなくたって」

「…別に」



短く素っ気ない返事は、どうやらそのことで仏頂面をしていた訳ではなかったらしい。
長いバディ歴も相俟ってか、神田の数少ない言葉でも意味を汲み取ることができるようになった。
なら何か?と首を傾げる雪に向けて、それ以上語られる言葉はない。



(あ。これは言わないな)



神田が作る沈黙の壁は硬い。
これ以上は簡単に口を割らないだろう。
仕方ないと、雪は一人肩を竦めた。

/ 2655ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp