My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
それと同時に、ティキの中で一つの疑問が生まれる。
「けど壊れなかったってことは、一度は死にかけたってことだろ?そのイノセンス」
(だから煽るなと言うにっ)
「煽ってねぇよ」
煽るつもりなどない。
雪には取り繕うなと言ったのだ。
その自分が雪相手に取り繕う気もない。
(所有者も無しに自我を保ったってんなら、ハートの可能性があるかもしれねぇだろ)
(異例はアレン・ウォーカーのイノセンスにも、リナリー・リーのイノセンスにもある。それにそのイノセンスにハートの可能性があるのなら、現時点で雪の体は───…)
「体?」
(………)
「なんだよ。また言えねぇこと?」
沈黙を作るワイズリーに眉を潜めながら、ティキは再び問い詰めることはしなかった。
話をはぐらかされて見逃した時とは違う。
「やめろよな、こんな時に面倒臭ぇ反応すんの」
ティキの作り出した見えない壁を押し破るかのように、目の前の視界一面張り付いた手で闇に覆われていた。
こんな状況下でワイズリーに構ってる暇などないからだ。
───ビシッ
見えない壁に亀裂が入る。
ほんの一筋だった亀裂は、やがてビシビシと線を広げ拡大していく。
破られるのは時間の問題だった。
「本当、すげぇな」
此処は雪の世界。
目の前のものは全て雪の思いが具現化したもの。
これだけ強い負の思いを持ちながら、スキンのように普段から当り散らしてはいない。
確固たる意志がなければできないことだ。
「親父さんのイノセンスも、流石雪の親と言ったところか」
乾いた笑みしか浮かばない。
しかし皮肉ではないティキの零れた本音は、雪の耳に届いていた。
"はー。ファインダーの鏡さな、雪は。流石親の血"
漠然と雪の脳裏に浮かんだのは、今まで幾度も浴びせられてきた親への賞賛だった。