My important place【D.Gray-man】
第45章 10/31Halloween(番外編)
何故二つなのか、と鼻先でグラスをつつけば、どことなく疲れた様子で神田は小さな溜息を零した。
「…礼を言いたい人がいたから、捜してた。また酒を酌み交わそうって言ってたからな。なのに散々捜してんのに何処にもいやしねぇ。いつもならあっちからうざいくらいに引っ付いて来やがるのに…長期任務でもねぇはずだし、教団にはいるはずなのに」
「?」
一体誰の話をしているのだろうか。
首を傾げつつ、なんとなく神田はその名は言わないだろうと問いかけるのは止めた。
それでも自然と尾は上がる。
誰かはわからないが、神田がここまで他人に感謝の意を示すのは珍しい。
それだけ、思いを向けられるような相手が教団にいるのだろう。
(嬉しいな)
ぱさり、と尾が揺れる。
神田と恋仲になった今でも、教団で彼が他人に心を開いていく様に喜びを感じるのは変わらないらしい。
否、大切な人だからこそ。
そうして人らしさを取り戻していく彼を見るのが、堪らなく嬉しいのだろう。
「あぉんっ」
「あ?」
たしっと机に前足を乗せて、空のグラスを鼻先で押し出す。
「んだよ。代わりに付き合うとでも言いたいのか」
簡単に真意を読み取った神田に、こくこくと頷けば、仕方ないと肩を下げられた。
「はぁ…まさか犬っころと酒を酌み交わす日がくるとはな…」
「わぅん(犬じゃなくて狼ね)」
溜息をつきながらも洋酒の瓶を手にするところ、了承してくれたらしい。
いつか神田と酒を酌み交わしたいと思っていた雪にとっては、願ったり叶ったり。
ぱさり、とまた尾が揺れる。
「それよりなんだその姿。どうせまたコムイの所為なんだろうが」
「わふ(正解)」
「他にも被害に合ってる連中を見掛けたからな。阿呆な行事に託けて阿呆なことやってんだろ」
「あぅん(それも正解)」
食堂で居合わせなかった神田は、どうやらその被害から逃れていたらしい。
いつもと変わらない神田の姿を羨みながら、目の前に置かれた琥珀色の液体が注がれたグラスに雪は鼻先を寄せた。
獣の鼻を刺激する、強いアルコール臭。
強い酒であることは、洋酒に別段詳しくない雪にもわかった。