My important place【D.Gray-man】
第45章 10/31Halloween(番外編)
「狗は狗らしく。それをお忘れなきよう。では、」
「…くふっ(本当感じ悪いっ)」
綺麗に一礼して去っていくトクサを睨み付けて見送る。
すっかりいつも通りのトクサに戻った姿に、今度は気に掛け追おうなどとは一切思わなかった。
鎖を外して貰えたお陰で、ぐんと軽くなる体。
中庭から遠ざかるトクサの匂いをすんすんと嗅ぎながら、もう大丈夫かと安堵していると。
「雪」
名を呼ばれた。
確かにそれは、彼の声で。
(え?)
思わず固まってしまう。
目の前の芝に座り込んだままの神田を金瞳に映して、それでも微動だにできなかった。
今、彼は確かに呼んだ。
その名を。
見つめる先。
真っ直ぐに向けられている黒曜石のような目が、ふと感情を帯びた。
先程の冷たさはもうない。
「小動物っぽいと思ったことは沢山あったが、お前犬っころだったのか。雪」
「───!」
二度目はしっかりと、その目に映した。
求めていた名を呼ぶ彼の口を。
獣の金瞳が見開く。
今度こそ彼は気付いてくれたらしい。
「まぁ猫よりは犬だよな、お前。気紛れよりは素直な割合の方が多そうだし。意地っ張りな所はあるけど」
「…っ」
「?…おい?何固まっ」
「きゃふんッ!」
「おま…!」
ぷるぷると戦慄く体。
雪のその謎の反応に神田が怪訝に問いかけた途端、毛皮の体は再び飛び付いた。
ぼふっと芝の上に再び転がる人間と狼。
「っ…またかよ…」
「きゅふん…ふん…っ」
「お前な…」
再び視界に広がる青い空。
はぁ、と溜息をつきながら、神田は呆れ顔で泣きつく狼を見た。
しかし今度は雪の自由にさせたまま、押し返そうとはしない。
(よかった…っ)
すんすんと鼻を鳴らしながら尾を振る雪は、神田の反応を伺うどころではなかった。
やっと気付いてもらえたことに歓喜と涙。
ただ名前を呼んでもらえることにこんなに嬉しさを感じたのは、独房での一件以来ではないだろうか。