My important place【D.Gray-man】
第45章 10/31Halloween(番外編)
「まだ何か?そのくらいの噛み跡なら掠り傷にもならないでしょう、貴方なら」
「んなこと気にしてんじゃねぇよ」
トクサには変わらず素っ気ない物言いで、しかし神田の目は雪へと向いていた。
じっと見てくる黒曜石の瞳に、先程まであった殺気は残っていない。
不意に伸びた手は、伏せた雪の耳元へと触れる。
殴られるのだろうかと、ぴくりと震えて身構える。
しかし雪の予想とは反して、触れてきた手は優しいものだった。
耳元から頭、後頭部へと触れる。
滑らかで心地良い毛並みは、撫でれば覚えがあった。
肌と肌の触れ合いでよく感じていた、彼女の髪と同じものだ。
じっと獣の金瞳を再度見つめて、神田は小さく溜息を零した。
どうやら面倒事に巻き込まれたのは、本当のようだ。
「撤回する。こいつは置いていけ」
「何を急に」
「俺がいりゃテメェは不要だろ。元々その"役目"は俺に任されてるもんだ」
はっきりとは言わずとも、それだけで充分だった。
鋭い神田の視線を受けて、トクサは諦めたように溜息を零す。
(時間切れですか)
どうやら彼は、獣の正体に気付いてしまったらしい。
こうなれば彼らを引き離すのは至難の業。
教団内での雪の監視役を中央庁から一任されているトクサだが、その役を教団側からも任命されている者がいる。
それがエクソシストである神田ユウだった。
雪の傍に張り付くトクサに冷たい目を向けてくることはあったものの、こうしてはっきりと言葉にして反抗してきたことはない。
しかしそう告げられれば、トクサも噛み付く気はなかった。
元より狗とエクソシストは相容れない。
それは自分と彼も同じだ。
「わかりました。使徒様の仰せのままに」
チョーカーに繋いでいた鎖をあっさりと外す。
「よかったですね、良い飼い主が見つかったようで。愛玩動物にしてもらえますよ」
「……くふん」
にっこり笑って嫌味はきちんと付け足すことを忘れずに。
トクサの笑顔に素っ気なく鳴きながら、雪はそっぽを向いた。
一瞬、先程はいつもと違うトクサに見えたが、感じが悪いのは相変わらずのようだ。