My important place【D.Gray-man】
第45章 10/31Halloween(番外編)
「テメェ…喧嘩売ってんのか」
「きゅふ…っ(気付いてよ、私だってことくらい…ユウの馬鹿っ)」
怒りを露わにした神田が低い声で威嚇する。
目の前からビシビシと伝わってくる強い殺気を前にしても、雪は噛み付いたまま放さなかった。
嚙み千切るつもりはない。
少し噛み跡が残る程度で、流血させるつもりもない。
それでもふつふつと湧く神田への不満に、放さない程度には咥え込む。
「ぐるるる…ッ」
獣のように低く呻りながら、しかし耳はぺたんと伏せて。
睨み付けるように、しかし乞うような眼で。
見ただけで正体に気付け、と言う方が無茶な話なのかもしれない。
しかしトクサは一目で雪だと見破ったのだ。
いくら気を探れるとは言え、彼にできて、洞察力の高く長い付き合いの神田にできないはずはない。
気付いて欲しい、という願望と。
気付いてくれない、という哀惜。
濡れるように光を放つ、鮮やかな金色の瞳。
感情が見え隠れするその眼に、神田は一発くれてやろうかと思った拳を握ったまま止まった。
「ぐるる…」
「……お前…」
これは、見たことがある。
覚えがある。
同じような眼を、いつか何処かで、垣間見た。
あれは───
暗い独房の中で、目を奪われる程に惹き付けられた涙を称えた彼女の瞳。
「全く、使徒様に噛み付くなど行儀がなってないですね。ほら放しなさい。猿轡、されたいですか?」
「……ぐる…」
「良い子ですね」
尾を縛り上げた札の痛みを思い出し、悔しそうに口を放す。
猿轡など、鎖以上の屈辱だ。
渋々と神田の手から顔を下げて、恨めしそうに雪はトクサを見上げる。
どう足掻いても、神田に自分の正体を伝える方法がない。
人間に戻るまで諦めるしかないのか。
「待て」
雪の鎖を引くトクサを止めたのは、再び割り込んできた低い声。
しかし今度は顰め面などではない、冷静な面持ちの神田だった。