My important place【D.Gray-man】
第45章 10/31Halloween(番外編)
「希望など持たぬこと。他人に縋っても真っ当な道など歩めません。自分にとって何が、誰が、どの道が利用でき利益を齎すのか。狗として生きるなら、合理的に考えなさい」
淡々と告げる声は、冷たくも、抑制するものでもない。
じっと見つめる金瞳を見返して、ふとトクサが浮かべたのは微かに苦みを残すような表情。
「…くふん?」
何故そんな顔をするのか。
問いかけるように首を傾げれば、サッと顔を背けられた。
「ま。狗ならば自分の立場を弁えることも大事なことだと、そういうことですよ」
腰を上げて淡々と告げるトクサは、いつもの仮面を被っているような雰囲気へと戻っていた。
先程垣間見えた表情は、気の所為だったかと思う程。
あれは見間違いだったのだろうか?
そうは思えない。
咥えていた団服を放し、雪は顔を背けるトクサへと長い鼻先を上げた。
匂いでは感情まで読み取れない。
しかし獣の勘なのか、僅かな違和感を心が訴えかけてくる。
そんな表情を彼が見せてきたのは初めてだったから、純粋に気になった。
鴉は言うなれば中央庁の"番犬"。
狗としての立場は、トクサも似たようなものなのかもしれない。
「とにかくハウスしますよ。貴女には貴女の生きるべき世界があることを、きちんと教えなければ」
「きゅふん!?(え!?それはやだッ!)」
「何を往生際の悪い。別に手荒に傷付けようなどと言ってはいません。少し躾…勉強会を開くだけですよ。狗の自覚がない貴女の為に」
「わぅん!(今躾って言った!)」
「はいはい、静かにしましょうね。ほねっこあげませんよ?」
「あぉん!(んなもん要るかァアア!)」
いつの間にか再び掴まれてしまった鎖を、遠慮のない力で引っ張られる。
足を踏ん張ってもズルズルと少しずつ引き摺られる様に、机の下から引っ張り出されながら雪は虚しく遠吠えをした。
「オイ」
にこにこと胡散臭い笑顔で鎖を引くトクサと、鳴き喚く雪。
そこに突如割り込んできたのは、低い声。
「ぎゃん!?」
同時に尾に鋭い痛みを感じて、バランスを崩し前のめりに傾いた雪の顔は芝へと直撃した。
一体何が起きたというのか。