My important place【D.Gray-man】
第45章 10/31Halloween(番外編)
「その獣が望んだのですよ。何かを生かすには、それ相応の糧や犠牲が付きもの。等価交換です。世界とはそういうものでしょう?」
「自己犠牲が美徳とでも語る口か、お前。俺の嫌いなタイプだ」
「ふふ、安心して下さい。元より好かれようなどとは思っていませんから。使徒様と我らでは立場が違う。同じ場に立ち並ぶなど、畏れ多い」
笑ってはいるが、笑ってはいない。
アレンや雪が時折見せていた作り物の笑顔とは、また違う笑み。
しかしこれまた胸糞悪くなる笑みだと、神田の眉間の皺が濃く変わる。
嫌味ったらしい物言いだ。
「さぁ、ハウスしますよ」
「わふんッ(だからハウス違うからッ)」
「…オイ何してる」
ふるふると首を横に振ったかと思えば、わしりと大きな口で咥えたのは神田の団服。
引っ張り返せば、結構な力で止められる。
どうやら放す気はないらしい。
「放せ」
「っ(嫌だっ)」
「放せつってんだろ駄犬が」
「っ!(嫌っ!)」
何度引っ張ろうにも、ふるふると首を横に振るだけで放す素振りは見せない雪に、ピキリと神田の額に青筋が浮かんだ。
「ああ、殴らないで下さいね使徒様。相手はただの動物ですよ」
「チッ、じゃあ早く連れてけ」
冷たく見捨てる神田の言葉。
そこに思いの外ショックを受けて、雪は三角耳をぺたりと伏せてしまった。
くふん、と悲しげな声を漏らしても、神田の目はこちらを見ようとしない。
団服を咥えていた牙の力が緩む。
「全く、だから往生際が悪いと…狗とエクソシストは違います。相容れないのですよ、諦めなさい」
やれやれと雪の傍まで歩み寄ったトクサが、腰を落として狼との目線の高さを合わせた。
おずおずと目を向けてくる雪に、溜息をついて。
「貴女はどちらかと言えば、我らに近い。現実を見て、甘えた考えは捨てることです。…自分の為にも」
「………」
伏せた耳に届いた声は、今日聞いた中で一番穏やかなものだった。
仮面を貼り付けた声には思えない。
些細な物音も拾う大きな耳は、確かにトクサの声を詳細に拾い上げた。
伏せていた耳が上がる。