My important place【D.Gray-man】
第45章 10/31Halloween(番外編)
ビリビリと掌に残る痛み。
「ちっ…これだから嫌いなんですよ。使徒とやらは」
痛みを払うように手を振り、憎々しげに舌打ちする。
その手に緋装束の袖から札を取り出すと、トクサは駆ける獣を追った。
(この匂い…!)
迷わず廊下を駆ける雪は、鋭い嗅覚で掠め取っていた。
それは誰よりも親しんだ匂い。
森の草木の匂いと鉄の匂いが混じる。
それからほんのりと、アルコール臭もした。
覚えがある。
これはあの暗く狭い独房の中で、交わした口付けの香りだ。
「待ちなさい!何処へ逃げても一緒ですよ、往生際の悪い!」
「っ!(待てと言われて誰が大人しく待つかっての…!)」
きゅっと踵を返し、素早く直角に方向転換して角を曲がる。
すぐに見えてきたのは、薄暗く広い廊下に差し込んでいる微かな外の明かり。
中庭に繋がる入口だった。
迷いなく飛び込んだ其処に、一気に視界が明るい世界へと広がる。
中庭に植えられた、季節を問わず青々とした芝。
シンボルツリーのように飾られた木々は、芝とは逆に季節ごとに色味を変える。
今は空から差し込む太陽光に照らされ、少なくなった鬱金色の葉が数枚残されている程度。
中庭の各所には、人が寛げるようにと設置されたベンチや机や椅子。
其処に予想していた人物の姿を雪は見つけた。
10月末。
充分に肌寒いこの季節に、中庭に吹き込む風は冷たい。
防寒の為か、私服の上に団服を羽織った姿で一人、椅子に腰掛けている人物。
いつも後頭部の上できっちり一つにまとめられている髪は、余裕を余して左サイドに寄せられ、肩の位置で一つに結ばれている。
その漆黒の髪の隙間から覗く切れ目が、騒音を耳にして向いた。
黒曜石のような暗い闇の瞳。
金瞳と重ね、一目散に雪は駆け寄った。
「わぅんッ!(ユウ!)」
「あ?」
其処にいたのは、朝方森でトレーニングでもしてきたのか。
爽やかな草木の匂いと染みる鉄の匂いを纏った青年、神田ユウだった。