My important place【D.Gray-man】
第45章 10/31Halloween(番外編)
「さて。そんな姿になった経緯は後で伺いますから、まずは飼い犬になりましょうね」
「きゃうっ!わぅ!」
「ほらほら、暴れない。元より貴女は狗でしょう?その身分をもうお忘れですか」
「あぅ…っ」
ぐっと足で首元を押さえるように踏み付けられる。
見下ろし嘲笑うかのようにして吐き出された"狗"という言葉に、雪の暴れる体は止まってしまった。
ルベリエの狗となったこと。
その現実を突き付けられ、一瞬できた隙。
そこをトクサが見逃すはずもなく、簡単に鎖は首のチョーカーの金具にカチンと掛けられてしまう。
ずしりと体が重くなる気配。
それは独房で感じていた見えない束縛と同じ。
目には見えない、体を縛る"枷"だ。
「よくできました。良い子ですね」
ぽふりぽふりと、感情のこもっていないトクサの手が頭を撫でてくる。
振り払う気も起きなくてされるがままにしていれば、尾に巻き付いていた札の縛りは外された。
「さ、ハウスですよ」
鎖を引っ張られる。
くすりくすりと笑う声に、ぴくりと三角耳が立つ。
狗に成り下がったのは自分の意志だ。
そこは間違いでもないし否定もできない。
しかし。
「ぐるる…(だっれが…)」
「ん?なんです───」
「がぅうッ!!!(ハウスなんかするかァアア!!!)」
心まで狗に成り下がった気は毛頭ない。
激しく吠え立てれば、鋭い獣の金瞳が鮮やかに輝く。
逆立った狼の毛から、パチリと瞬く眩い光が生まれた。
「ッ!?な───」
決して大きな光ではなかったが、真白に輝く確かな形となって鎖を伝い、トクサの手元を叩く。
ビリ、と肌を焼くような痛み。
トクサが思わず手を離せば、ガチャンッと床に術印の鎖が放り出された。
「しま…っ」
「!(しめた!)」
「あ!待ちなさい!」
再び駆け出そうとする雪を追うように、トクサが札を飛ばす。
「───!」
しかし不意に雪は顔を上げると、途端に踵を返しUターンをした。
ぴんと立つ耳と尾。
「何を…!?」
器用に小回りを利かせて反転すると、札を避けて力強く地を蹴る。
トクサの頭上を軽々と飛躍した獣は、捉えた匂いの後を追った。