My important place【D.Gray-man】
第45章 10/31Halloween(番外編)
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「はっ…ハッ…!」
裂けた大きな口から垂れる、風に靡く長い舌。
浅く息衝きながら、駆ける足は一歩一歩が飛躍するかのよう。
人間の時とは違う。
走れば走る程、筋肉は躍動し血は踊る。
ぐんぐんと廊下の並ぶ窓を次々に追い抜いていく様は、まるで風のようだった。
「ま、待ってねーちゃん…!お、落ち…っ落ちるぅ…!」
必死に首にしがみ付いているティモシーが、流れる風に振り落とされそうになる。
悲鳴のような声を耳にして、雪はやっと脇目も振らず一心に走り続けていたことに気付いた。
きゅっと前足に力を込めて急ブレーキをかければ、反動で背中の少年は前方に投げ出された。
「ぎゃんっ」
「!(あっ)」
べしゃんっと頭から床に落ちるティモシーに、慌てて傍へと駆け寄る。
「イテテ…」
「くぅん…?」
獣特有の口へと変わってしまってからは、人語を話せなくなってしまった。
それでも心配する空気は伝わったらしく、鼻先を寄せればティモシーはぶんぶんと首を横に振る。
「オレは大丈夫っそれよりねーちゃんすげぇな、弾丸みたいなスピードだった!」
怒涛の波に押し潰される前にと、ティモシーを背負ったまま食堂から一目散に逃げ出した。
人の波の上を飛び越え、コムイの足元を抜き去った。
その姿を目で追えた者は、恐らく誰もいなかっただろう。
床に打ち付けた頬を擦りながらも、にんまりと笑うティモシーの目が再び煌めく。
見覚えのある反応に、雪は嫌な予感を覚え後退った。
「なぁっ雪ねーちゃん、オレと遊ぼーよ!ハロウィン!」
「きゅふっ!(やっぱり!)」
嫌な予感は当たったらしい。
こんな獣の姿でいることさえ戸惑っている最中なのに、遊び気分になど浸れようか。
ぶんぶんと大きく首を横に振れば、ええーっと幼い抗議の声が上がる。
「いーじゃん、折角そんな恰好良い姿になれたのにっ今日だけなんだぜ?」
「わうっわうんっ(だから嫌なの!)」
こんな姿で人前に出ようものなら、また愛玩動物扱いされてしまうかもしれない。
構われるのは嫌いではないが、手当たり次第に露骨に構われるのも厄介だ。
自分はペットではない。