My important place【D.Gray-man】
第45章 10/31Halloween(番外編)
「何がそんなに気に入らないんさ」
頑なに拒否する理由はなんのか。
南瓜であるのに、何故か表情豊かに見えるラビは肩を竦めて溜息を零した。
じっと金瞳で見つめ返す雪は、やがて眉を大きく下げた。
「…もさもさする」
「もさ…?」
「口元が、もさもさするの。…多分、中途半端な変な顔になってる。この手みたいに」
この手、と金瞳が見下ろすのは、ふわふわの産毛で覆われた獣のような両手。
となると、雪の口元も狼の口のように変わってしまったというのか。
見える瞳は、色は違えど人間のものと変わらない。
確かに目元が人で口元が狼ならば、雪の言う"半端"なものとなる。
「あー…成程…」
「資料でも人と狼が混ざり合った顔を象っている画は、よく見られます」
リンクの言う通り、オカルトやホラー映画に出現する人狼もまた、決して"綺麗"と言われる風貌はしていなかった。
そういう表現が向けられるのは吸血鬼の類いが多く、人狼は逆に醜いものとして扱われることが多い。
「なんさ。人は見かけじゃなく中身って言ってたのに、その雪が見かけを気にするんさ?」
「ぅ…。だって…変だって、笑われるのやだもん…」
リナリー程、お洒落に着飾ることを意識しない雪にしては珍しい発言。
けらけらと明るく笑うラビに対し、大きな耳と尾をヘタらせてぽそぽそと愚痴るのはなんとも女性らしい悩み。
(え、何この女っぽさ。可愛いんだけど)
思わず隻眼で凝視してしまう程に。
「はいラビ退いて」
「おぶッ」
じーっと穴が空きそうな程に間近で雪を凝視するラビを、横からどんと押し出す。
雪の前を陣取ったのは、紳士のように優しい笑顔を浮かべたアレンだった。
「大丈夫ですよ、雪さん。雪さんの容姿がどんなものに変わったって、雪さんは雪さんです。僕は変わらず好きですよ」
(うわ。ドサクサに紛れて好きって言ったさ。すげぇ爽やかに)
さらりと言い切るアレンの言葉は疾しさなどなく、そして作られたものにも聞こえない。
真っ直ぐに向けられるアレンの気持ちに、雪の金瞳は揺らいだ。