My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「はぁ…わかったよ。フェイくん」
「はい?」
「ちょっと地下まで様子見てきてくれないかな」
「わ、私がですか?」
「うん。警護班の彼らから直接話を聞いてきて欲しい。ついでに雪くんの様子も見てきて」
「ですが…」
「頼むよ。今此処で僕が一番信頼できるのは、君しかいないから」
「室長…」
にこりと、隈のできた力ない笑みを浮かべて頼み込む。
爽やかな朝日を受けて微笑むコムイの表情は、少しばかり儚くも見えた。
"信頼"という言葉に若干照れを見せつつ、そんなコムイの力無き頼みにフェイは口を閉じた。
雪のノアの一件でコムイがずっと頭を抱え続けているのは、間近で見ていたフェイ自身よく知っている。
少しでも彼の助けになるならば、致し方ない。
「…わかりました。彼の言葉通りかどうか、私に確かめさせて頂きます。室長は此処でお待ち下さい」
「うん。ありがとう」
カツカツと高いヒールを鳴らし、一礼して司令室を出ていく。
そんなフェイをにこにこと見送っていたコムイは、ぱたんと閉まる扉の音を耳に沈黙。
そして、潔く肩を下げた。
「はぁ………で?」
其処にはもう先程まで浮かべていた笑顔はない。
「神田くん、つくならもうちょっとマシな嘘ついてくれるかな」
「…知ってたのかよ」
「君のお師匠さんが直談判しに来たお陰でね」
素を見せたコムイに一瞬、神田は目を見張った。
しかしティエドールとその手の会話は事前に交わしていた身。
すぐに納得できた。
この場でコムイがすぐに素を見せなかったのは、恐らくフェイを気にしてなのだろう。
となれば、ティエドールとコムイとの間だけで話し合いは行われたのか。
そしてティエドールは神田に向けた言葉通りのことを、実行し結果を出してくれたらしい。
顔には出さずに、神田は内心で安堵した。