My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
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黒の教団で重きを置かれているのは一にも二にも、最高責任者となる室長である。
よって彼が常に身を置いている司令室は一層強固に作られており、彼を守る為の砦となっている。
そんな司令室には強化硝子で作られた大きな窓が、一つだけ設置されている。
室長が身を置く椅子の背。
奇襲などを受け付けないその強化硝子も、優しい陽の光ならば安易に通す。
爽やかな朝日。
天候に恵まれた一日になることを予感させるような、暖かい陽の光。
それは優しく、椅子に座る人物の背を暖めていた。
「ほんっと、頭痛い」
額を指で押さえながら、どんよりと雨雲のように表情を暗く曇らせるその人物を。
「はぁ~…それで、見兼ねた神田くんが雪くんに食事を運んだって?」
「ああ、それだけだ。他は何もしていない」
「…へぇえ~…(イヤイヤしてるでしょ思いっきり。警備全員気絶させたでしょ!)」
そう叫びたい衝動をぐっと抑えて、コムイはひくりと口元を歪に曲げて笑った。
何かと策士なティエドールとの話が終わったかと思えば、今度は朝一で話があると現れたのは神田だった。
ティエドールとの一件で予想はついていたから、驚きはしなかった。
しかしお陰で一睡もできていない。
眼鏡の奥の切れ目の下は、隈で暗く沈んでいた。
「警護班の者達は?」
「普段通りだ。意識もはっきりして変わらず警護をしてる。何も問題ない」
「へぇええ~(問題は僕の目の前にあるけどね。今この目の前にね!)」
いけしゃあしゃあと何を言うかと罵りたくもなったが、今この場ではできない。
ひくりと更に口元を歪ませ、どうにかコムイは笑ってみせた。
朝一にコムイの元へと訪れた神田が淡々と告げたのは、昨夜の出来事。
なんでも神田曰く、総倒れしていた警護班を"偶々"居合わせ見つけたらしく、気絶している彼らの代わりに囚人の世話として雪に料理を運んだだとか。
なんとも雑な話である。