My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「はぁ…本当、理不尽な暴力」
「どこがだよ。意味なく暴力振るったりしな」
「嘘だ」
「即答すんな」
皆まで言う前に真顔で否定された。
どこまでお前の中で俺は暴君扱いになってんだ。
一頻り抓った頬を解放してやれば、赤くなったそこを擦りながら恨めしそうに見てくる。
どうせ数十分もすれば消えてんだろ、その腫れも。
そこまで力入れてねぇよ。
「いいからお前は飯食───」
ごたごた今此処で言い合ってる暇は、あまりない。
残りの飯を食ってこいと促す前に、その気配に気付いた。
背を向けてる扉の向こう側。
静かだった気配が動く。
「チッ」
時間切れか。
「悪いな、もう待ってやれそうにない」
「え?」
「お前は大人しく待ってろ。話は俺がつけてくる」
触れていた雪の体から身を離す。
まだ扉の向こうの気配は浅い。
今ならどうにか誤魔化せんだろ。
鉄の取っ手を掴んで、重い扉を少し開く。
振り返り見た雪の表情は、不安げなものだったが。
「私は大丈夫だから。気を付けて」
確かに、意志ある強い眼をしていた。