My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「いいから手、離せ。見えねぇだろ」
「ぅぅ…今は見なくていい…」
「お前の照れ顔なんて今更だ。慣れた」
寧ろ見せろ。
お前だって嫌がらせみたいに、俺の羞恥顔覗いてきてただろ。
「私は慣れてないの…だから照れるの。いっつもこんなんじゃないもん…」
だからなんで張り合ってんだよ。
ゆっくりと目元から離れる手。
其処には予想通りの、少し不服そうな顔で照れる雪がいた。
「ユウってそういうこと普段言わないでしょ」
「言えって催促してきたのは何処のどいつだ」
「…ぅ」
自分が発端だろうが。
そう呆れて続けようとすれば、迷うように視線を辺りに巡らせた雪が見上げてくる。
意志の見える瞳に捉えられて、つい口が止まった。
「じゃあ…偶には、そういうふうに…優しくしてね」
上目遣いに頬を染めて、言い難そうに辿々しく伝えてくる。
辿々しいが、確かな主張。
「偶にで、いいから……色々と心臓に悪い…」
「………」
……………それは俺の台詞だ。
「…はぁあ…」
「え。なんでそこで溜息」
「んっとに……馬鹿」
「なっ…また馬鹿って言った!」
心臓に悪いのは俺の方だ。
それこそ偶にしか見せてこないから、こいつのこういう甘えた言動は目にも耳にも悪い。
ついでに体にも。
「じゃあ他の奴にはするなよ」
「? 何を」
「そういう強請り」
「そういうって…どういう」
ほらみろ、わかってねぇ。
だから馬鹿なんだよ。
「よくわかんないけど、ユウにしかこんなこと頼まないよ。褒めても罵倒するなんて。こんなに口悪いの、ユウくらいだし」
「………」
「いふぁい!」
やれやれなんて言いながらほざくもんだから、ついイラッとした。
頬を摘まんで引っ張ってやれば…こいつ肉がついてない割には伸びるよな。
面白ぇ。
「ちょ…っいふぁいいふぁい!ぼうりょふはんらい!」
「暴力じゃねぇよ。馬鹿なお前への罰」
「意味わかんないひ!」
「わかんねぇなら考えろ。自分で」
お前の甘えに弱いだなんて、誰が教えてやるもんか。
精々頭捻って必死に考えてろ。