My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「あ、あのね…っいくら褒め言葉でも馬鹿とか阿呆とか言い過ぎだから…!褒めれば罵倒しても許されると思ってない!?傷付くから結構!」
「へえ。傷付いてんのか、お前」
「慣れましたけどね!口の悪い誰かさんのお陰で!」
結局どっちだよ、それ。
声を荒げて怒ってる癖に、傍にぴたりとついて離れようとはしない。
これだ。
辺りは変わらず薄い桃色の花弁が舞っているのに、俺の目は眉を怒らせて文句を垂れてる雪しか視えていない。
俺の世界を別物へと作り変える、こいつの凄い所。
「今更だけど、褒めてくれるなら…もう少し優しい言葉くれたって…」
優しい、ね。
言い難そうにも不服そうにも見える顔で、雪が控えめに主張してくる。
控えめであっても、珍しいこいつの主張だ。
「なら撤回する」
それなら、聞いてやってもいいかと思った。
「え?」
きょとりと固まる雪の手を握った左手を、持ち上げ寄せる。
「俺には予想もつかないことを口にするから、つい笑っちまうんだよ。馬鹿にしてる訳じゃない。面白ぇと思う」
「ュゥ…?」
「そういう雪の言葉で、力んでた余計なもんが抜けるというか。時々ほっとする」
「ぁ…あの…」
空いた手で退け腰を掴まえ引き寄せれば、隙間なく密着する体。
寒そうな薄着の恰好してんのに、抱き寄せた雪の体は温かかった。
間近に寄る顔を覗き込んで言えば、その顔も熱を持つ。
「俺もまだ笑えるんだと思うと、心が軽くなる気がする」
「…っ」
「だからお前はそのままでいろ。…そのままのお前が、俺は好きだ」
「っ…!」
……やっぱ林檎だな、お前のそれ。
蝋燭の灯りでもわかるくらい、赤面している雪の顔。
まじまじと見ていれば、引き寄せていた手が視界を遮るように目元に触れて覆ってきた。
「おい。見えねぇよ」
「…参りました…私の負けです…」
暗い視界の中届いたのは、弱々しく降参の白旗を上げてくる声。
つーか、いつから勝負事になってんだよこれ。
優しい言葉にしろっつったのはお前だぞ。