My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「あっ。もしかしてあの任務で一瞬反応が遅れたのは、その幻覚を見たからとか…!」
「あの任務っていつの任務だよ」
「ユウとラビとで行ったベルリン任務の時だよっ。ほら。霧の中からAKUMAが現れた時、ユウ一瞬反応遅れてたでしょ」
「………」
…憶えてねぇ。
任務なんざ年中山程の数をこなしてんだ。
そんな一任務のこと、いちいち詳細に憶えてる訳ねぇだろ。
つーかそれ、霧の所為じゃねぇのか。
普通に考えて。
「だとしたら任務時に色々と問題になるよね…あ。でもユウの生きる為に必要なものなら失くせないし…っ誰にも言ってないんでしょ?多分。じゃあ知ってる私がそこはサポートしないと…っ」
一人うんうんと唸る雪は、本気でそんなことを心配しているらしい。
あれやこれやと言いながら、ころころと変わる表情。
「…っぶふ、く」
「!」
つい笑いが込み上げた。
「え。な。なんで笑うの…っ」
「なんでって。自分の立場忘れ過ぎだろ。どうやって任務のサポートすんだよ、今のお前が」
「! そ、それは…っ」
堪らず顔を背けて笑いを耐える。
なんつーか…温度差?
場違いな雪の発言というか表情というか。
此処が一瞬独房なことを忘れてしまった。
力が抜けた気がする。
「それにもうこの幻覚とも10年近い付き合いだ。視覚的な支障はなんもねぇよ。慣れた」
「そう、なの…?」
「ああ」
どうにか笑い堪え切れば、雪はほっとした表情を見せた。
それだけ真剣だったんだろう。
自然と力んでたのか、包んでいた掌は強く握り返してきていたから。
「やっぱりお前はお前だな」
「?」
「予測不能な阿呆だ」
「んなっ!」
良い意味でな。
何度か伝えたことのある言葉で褒めてやれば、忽ちショックを受けた顔をする。
その反応ももう見慣れたもんだ。
予測通り過ぎてまた笑えた。