My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「……雪。このことは、」
「うん。誰にも言わないよ。…凄く大事なこと、話してくれたんだよね。ありがとう」
皆まで言わずとも伝わったらしい。
念の為にと釘を刺す前に、肯定された。
やんわりとした笑顔付きで。
確かに大事なことだ。
他の誰にも話したことはない。
ただ…それでも俺が話せたのは、アルマのことだけだ。
"あの人"のことまでは詳細を話せなかった。
アルマのことだけでも、こうして枷ごと受け入れてくれた雪にほっとしている自分がいる。
素直に安心した。
憑き物が一つ取れたような感覚。
そこであの人のことまで知った時、雪はそこまで受け入れてくれるのか。
どうだろう。
「何?」
唐突だった。
何も話していないのに、首を傾げて見上げてくる雪と目が合う。
「まだ何かありそうな顔してる。心配事があるなら遠慮なく言ってくれていいよ」
心配事っちゃあ心配事かもしんねぇけど。
…多分、お前が予想してるもんとは違ぇよ。
「………」
なんて言ったらいいのか。
言うべきか言うまいか。
沈黙を作ってしまえば、中々口は開けない。
そんな俺をじっと見上げていた雪が、先に口を開く結果となった。
「そういえば…ユウがさっき話してた、抱えた記憶の残像って?」
探りを入れるような問いかけじゃない。
純粋なただの問いかけだったと思う。
だが核心を突く言葉に、ドクリと嫌な鼓動を立てたのは事実。
「………」
「…あ。言えないことは無理には───」
「蓮華」
「…れんげ?」
「…蓮華の花だ」
身を退こうとした雪の言葉を、行動と共に止める。
触れていた手を握り込むようにして、左手で繋ぎ止めた。
「……それが、俺の世界に降り積もる記憶の残像」
これを伝えたことがある人は、後にも先にもただ一人。
"花?……それは本当かい?"
ズウ・メイ・チャン。
アジア第六研究所で、料理長を務めていた男。
俺とアルマのことを見守ってきた、あの地下研究所で生き延びた老師だった。