My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「ユウが"こんな世界も悪くない"って私に笑ってくれた時から、覚悟してた。…私、ユウの人生に関わっていたい。今だけなんて言わない。先の未来まで、共に生きていたい。…そうやって笑ってもらえるような人生を、ユウに与えたいから」
伝わる言葉一つ一つ。
どこにも迷いは見当たらない。
「与えるって…ちょっと、偉そうな気もするけど…でも、本音だから。生半可な気持ちじゃないよ」
相変わらず、自信なさげな物言いだったが。
それでも雪はその言葉を止めなかった。
「傍にいるだけじゃなくて。隣に立っているだけじゃなくて。ユウの為に、私ができることをしていたい。…だから縛ってくれていい」
服を握っていた手が離れる。
中途半端に拘束してきていた腕が解かれて、伸びた手は俺の左手に触れた。
「アルマのこと、肯定も否定も…何も私は言えないけど……でも、誕生日にユウに伝えた時と、思いは一緒。生まれてきてくれて、生きていてくれて、ありがとう。私は、ユウが生きていてくれたことに、ありがとうって感謝したい」
自分勝手でごめんね、とまた小さな声で謝罪して。
雪は、儚い顔で笑った。
「私と出会ってくれて、私の手を握ってくれた。今の私が在るのは、ユウのおかげだから。だから……そのままでいい。ユウがアルマを思い生きるなら、私も忘れずにいる。ひとりじゃないから。私にも、手を握らせていて」
両手で包むように俺の左手を握る。
雪の目に、俺やアルマがどう映っているのか。
そんなこと気にならなかった。
目の前の雪のその存在だけで、よかった。
俺の生きる理由はあの人だ。
それは変わらない。
だけど。
立場も過去も全部ひっくるめて、俺を受け入れてくれる雪の為に、生きていたい。
そう思えたから。
「……ああ」
言葉は上手く出てこなかった。
胸の奥で詰まるように、言いようのない感情で満たされて。
両手で包まれる感覚。
掌から伝わる体温。
それは確かな現実だった。