My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
ぎこちない動作だった。
だが迷いは感じられなかった。
ふわりと、俺を包んだのはその体温。
「………」
何も言わずに、伸ばされた両腕が俺の背中に回る。
…いや、両腕を鎖で繋がれている今の雪じゃ、まともな抱擁もできない。
伸ばした両腕は背中に回ることなく、途中で強制的に止められる。
鎖の揺れる音がした。
中途半端に俺の体を包む細い腕。
不格好で曖昧な包み方。
だけど、確かに。
体温を感じることができる抱擁だった。
「…ごめん」
「……なんで雪が謝るんだよ」
「…こういう時、なんて言ったらいいのか…わからなくて…私、下手で…」
「………」
別にそんなもの、望んじゃいない。
救われようと思って話した訳じゃない。
「これも、きっと場違いなんだろうけど……でも、」
俺の服を、ぎゅっと雪の手が握る。
「ありがとう」
……ありがとう?
なんでそこで礼の言葉なんて出てくるのか。
意味がわからなくて雪の顔を伺おうとすれば、その前に顔を胸に押し付けられた。
「話してくれて、ありがとう。…ユウのこと。ユウと、アルマの、こと」
「…約束しただろ。お前が抱えてたもんを俺に伝えられた時に、俺も伝えたいことがあるって」
「…うん」
胸に顔を押し付けている雪からは、くぐもった小さな声しか届かない。
小さくて、よくはわからないが。
少し、儚い。
「……縛ってていいよ」
「…は…?」
「縛り付けてていい。ユウの為に、何ができるかなんて…今の私にはわからないけど…」
予想外の言葉に、腑抜けた返ししかできなかった。
言葉が見つからない俺に、胸に押し付けていた雪の顔が上がる。
見えたのは、儚い声をしていたけれど、それとは真逆の顔だった。
「ユウが一生背負おうと思ったものなら。私も一緒に背負わせて」
固い意志の見える瞳。