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My important place【D.Gray-man】

第44章 水魚の詩(うた)



「だから壊した。共には死ねない。アルマの手を取って、俺は逝くことができない。だから…あいつの体の"生"が尽きるまで、六幻で刺し続けた」






"ユ…な、で…っ"

"ごめん…ごめん、アルマ…ッ!"






絶望の目で見られたくなくて。
その目を斬り捨てた。
俺を呼ぶ声を聞きたくなくて。
その口を斬り捨てた。
縋ろうとする手を握れないから。
その四肢全て、斬り捨てた。



「…この手で握った、六幻で」



視線を、握り締めた左手に落とす。



「アルマを死へと追いやったのは、移植された脳の記憶。…俺を生へと焚き付けたのも、同じに俺の頭が抱えた壊れた記憶の残像だ」



俺の記憶はもう壊れてる。
残された残像はあの人の面影と、この視界を覆う蓮華の花しかない。

それでも、俺はアルマじゃなくあの人を取った。



「それでも俺がアルマを殺したことには変わりない。…これは俺が一生背負うべき業だ」



一生、許されないことを俺はアルマにしてしまった。



「だから自分で枷を付けた。アルマを傷付けたこの手で、もう六幻を握らないように。俺自身で俺を縛った」



左手で六幻を扱わないだなんて、俺の単なるエゴでしかない。
それでも何か形にしていないと気が済まなかった。
後悔なんて言葉じゃ片付けられない。
これは俺の罪だ。

握った拳を解く。
強張ったように動かない雪の顔を、ゆっくりと眼下に映す。
やっと目に映した雪の顔は、なんとも言えない表情をしていた。



「これがその"枷"を生んだ意味だ。俺が背負っているもの」

「………」

「なのに、それを俺は…お前にも背負わせた。理由も話さず、都合の良い言葉で縛り付けた」



喜怒哀楽、どの感情も見えない。
ただじっと暗い目を僅かに見開いて、俺を凝視していた。

…肯定されるか。
それとも、拒否されるのか。
わからない。



「今更だろうが…悪い───」

「謝らないで」



過ぎる微かな不安。
雪の拒絶を思うと勝手に口から出た謝罪は、その前に止められた。



「…謝らなくて、いい」



表情は変わりない。
雪の表情に、正も負も見当たらない。
ただ俺を凝視しながらも、一切動かなかった体が動きを見せた。

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