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My important place【D.Gray-man】

第44章 水魚の詩(うた)



あの日。
俺がアルマを見つけたのは、同じ第二使徒の器として管理されている仲間が眠る、胎中室だった。
そこで目にした光景は、至る所"赤"で埋め尽くされた世界。
仲間が眠る地面の中の穴一面、地下を支える巨大な鉄の柱の数々、罅の割れた壁全て。
目に映るもの全部が赤に染まり、足の踏み場も見当たらない程に血塗れの死体で埋め尽くされていた。

緋装束姿の鴉以外は、全員白衣姿の研究員。
そこにはエドガーやトゥイ達の姿もあった。






"ユウ。会えて嬉しいんだけど───ぼく、君を殺さなきゃ"






「血と涙を零しながら、あいつは俺に言ったんだ。"自分達が生きている限り、人間は悔い改めない。未来永劫、奴らの道具にされる。…なら共に死のう"」



縛られた生より、自由の死を。
そう望んだアルマの差し出した手。



「……だが俺はその手を握らなかった」



一度は受け入れかけた。
俺にも充分過ぎるくらい、アルマの憎悪がわかったから。

アルマは何も悪くない。
自ら死を選んで延々と続く負の連鎖を止めようとしているあいつを、否定する権利なんて誰にもない。

───死んだら…楽に、なれるかもしれない

もう辛いイノセンスの実験をする必要もない。
何度も体を痛め付けて死を感じて、その度に恐怖することもなくなる。

なんの為に生きる。
聖戦の為?
いつ俺がそれを望んだ。
俺の生きる希望はそこにはない。










"───ホントに?"










俺の生きる希望。
それは移植された脳の中に在った。










"おじいさんとおばあさんになっちゃってもよ?"










生きることをアルマと同じに諦めかけた時。
間際で俺を引き止めたのは、視界一面を覆い尽す程の蓮華の花だった。

アルマの姿を眩ませるくらいに、淡い光を放ちながら空から舞い落ちてきた幾重もの花弁。
それに視界は奪われて、共に心も奪われた。










"…待ってるね…ずっと。───待ってる"










無数の蓮華の花に囲まれて、振り返った"あの人"の儚くも優しい微笑み。
共に生きる未来を喜び、少しだけ恥ずかしそうに語る。
そんな彼女の姿が、脳裏にこびり付いて離れなくて。



「…生きたいと思ったから」



記憶に縛られてでも、その生を望んだんだ。

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