My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
✣
なんで急にそんなことを話そうと思ったのか。
「教団に…?」
「ああ」
迷いなく雪が俺の枷になると覚悟していたからか。
…違うな。
雪がずっと溜め込んでいたことを話す時は、俺も雪に話すと約束した。
この枷の意味を。
ノアのことを全て話してくれた雪だから、俺も話すべきだと思った。
だからだ。
「雪は第二使徒のことを知ってるんだろ。自分で調べて」
「ぅ…うん」
「どこまで知ってる」
「………」
問えば沈黙で返される。
問いというよりも催促に近い俺の声は、緊迫した空気を作り上げていたからだと思う。
「…"人造使徒計画"」
それでも雪は止まることはなかった。
俺の目線の先───雪の顔ではなく、細い左手首。
臙脂の数珠を、上から重ねた雪の手が強く握り締める。
はっきりと告げてきたのは、あの忌まわしい実験の確かな名称。
「ユウの体が、意図的に造られた器だってことと……"9年前の惨劇"のこと」
「───…」
"9年前の惨劇"
そこに無反応を貫くことはできなくて、微かに瞬き震えた。
「ALMAとYUの、二人の被験体の、こと」
しかしそんな俺の反応に雪は気付くことなく、挙げたのは二つの名。
…他人の口からその名を聞いたのは久しぶりだった。
〝アルマ〟
俺と同じ、第二使徒として生まれた存在。
「二人が迎えた───」
「わかった。もういい」
それ以上先は聞かなかった。
聞かなくても、雪が語ろうとしている内容は安易に予想が付いたからだ。
…わざわざ聞くまでもない。
俺とアルマの辿った末路なんて。
アルマの死はもう受け入れてる。
その幻影を追ったりしない。
今までにこうして、無関係な者にあの過去を話したことはなかった。
だからって怖気づく気も更々ない。
んなもん、どうってことはない。
「…その枷は、アルマの命を背負って生まれたもんだ」
ただ。
その名を声に出して呼んだのも、俺自身久しぶりな気がした。