My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
ぱくぱく
もそもそ
こきゅん
静かに料理を租借する音を耳にしながら、神田は独房唯一の入口であり出口である扉の前に、背を預けて立っていた。
分厚い扉の向こう側。
気絶しているであろう、警護班の男達の気配を探りながら。
扉の向こうの複数の気配は微動だにせず大人しいまま。
望ましいのは、彼らが起きる前にこの独房を去ること。
見つかったら見つかったで、コムイの元へ連行されることは目に見えていたから、それでもよかったのだが。
できれば自分の足で、コムイの下へと向かいたい。
「……んく」
「………」
「…もく」
「………」
しかし気になる気配はもう一つ。
先程から料理を口に運びながら、ちらちらと見てくる暗い両の目。
控えめながらに訴えかけてくるような視線に、無視もできないと神田は仕方なしにそこへ視線を寄越した。
「んだよ」
「んぐっけほっ」
ばちりと目が合えば、予想はしてなかったのか。
忽ちに料理を詰まらせ咳き込む雪に呆れる。
「おかわりでも欲しいのか」
「違っ…えほっ、そうじゃなくて…っ」
「じゃあなんだ」
「………」
問えば沈黙。
しかし雪が何を訴えているのか、神田には大方予想がついていた。
組んでいた腕を解くと、ごそりとポケットから取り出す。
「どうせ"これ"だろ」
「!」
そうして見せたのは、臙脂色の数珠が一つ。
雪の目に映るようにして掲げれば、図星だという顔で雪の両目がそれを捉える。
やはり彼女が気に掛けていたのは、この数珠だったらしい。