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My important place【D.Gray-man】

第44章 水魚の詩(うた)



「じゃあ…いただきます、」



神田の優しさに押されるように、料理に手を伸ばす。
一番手前にあったお椀を両手で持ち、口へと運んだ。
程良い熱さで咥内に広がったのは、じんわりと染みるような味噌の味。
野菜のダシと絡んでほんのりと甘みも感じる。

言われるがまま一口だけ含んで、こくりとゆっくり嚥下する。
温かい液体が咥内から喉へと流れていく感覚。

ほわりと温まる。
精神的な感情ではなく、それは確かな温度。



「………おいしい」



堪らず声に出た。

美味しいと感じる。
味わって飲み込んで、血肉と変わる糧を受け入れられている。



「…おいしい、なぁ」



もう一度、噛み締めるように。
その語尾は少しだけ震えていて、神田は背けていた目を向けた。



「おいしくて、あったかい」

「………」



ずず、と味噌汁を啜る。
啜る音に入り混じったのは泣きそうな声。

美味しい美味しいと呟きながら料理を租借する雪は、見慣れた食事中の彼女がよく浮かべる満面の笑顔ではなかった。
眉を下げて潤む目を閉じて、噛み締めるように口に運ぶ。
ジェリー程の腕前ではないだろう、調理師の男が作ったなんてことはない一杯の味噌汁。
ただの料理に大袈裟な、と言えばそれまでだが、それ程に雪にとって大きな意味を成すことは神田もわかっていた。



「…ゆっくり食えよ。食べられるだけでいいから」



だからこそそこに触れることなく、伸びた手は優しく雪の頭を撫ぜる。



「終わるまで、此処にいる」



触れる手を辛うじて感じ取れる程度の、優しい動作で頭を一撫でして。
傍にいて、と主張できない彼女の代わりに伝えてやれば、こくりと雪は確かに頷いたのだった。









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