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My important place【D.Gray-man】

第44章 水魚の詩(うた)



溜息を一つ。
裾を握る雪の手を払うこともなく、神田は椅子を引いて顎で示した。



「まだ朝にはなってねぇよ。其処、座れ」

「え?」

「飯」

「…食べろって?」

「その為に持ってきたんだ。他に何があるってんだよ」

「………」

「…無理に食べろとは言わないが、水なら飲めただろ。…一口含むくらい、やってみたらどうだ」



強制ではない、やんわりと促すような言葉。
普段は厳しいくらいにはっきりとした物言いをする神田にしては珍しい。
そこに彼なりの気遣いが感じ取れて、雪は大人しく椅子に座ることにした。



「全部じゃなくていい。食べ易いもんだけでいいから、食べてみろ」



目の前に置かれた料理のトレイ。
促されるままに小さな土鍋のような器の蓋を開ければ、ほこりと白い湯気が立つ。



(あ…いい匂い)



雪の鼻をくすぐる優しい香り。
香りと同様、優しくシンプルな色合いの卵粥が視界に映り込む。
米粒一つ一つが卵と絡み艶めき立つ。
また別のお椀の蓋を開ければ、親しんだ味噌の匂いと野菜の香り。
あんのかかったカブの切り身はダシが染みて、とろりと光沢を放っている。



(…美味しそう…)



素直に食欲をそそられた。



「………」

「どうした?」



しかし箸に手を伸ばそうとしない雪は、じっと料理のトレイを見つめたまま動こうとしない。



「苦手なもんがあんのか」

「そうじゃないけど…その…凄く、美味しそうだし……でも、」

「でも?」



まじまじと料理を見ていた雪の目が、傍らに立つ神田へと向く。



「これ、和食だよね?……凄くアンバランスなものが見えるんだけど」



そして指差したのは、和食一式に添えられるように置かれている別の器。
温かい湯気を立てながら主張してくるのは、オーブンで焼いたのか、程好く焦げ目の付いたグラタンのような一品。



「何、これ?」



一見グラタンのように見えてグラタンでない。
しかし明らかに和食ではない洋食料理。
知らない料理に尋ねれば、何故か神田の眉間に皺が寄った。

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