My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「そして私達にもわかり得ることだけで既に、彼らは様々な壁に囲われてる。だからこれ以上無闇に、二人の仲を荒らさないで欲しいんだ。…あの子達の剥き出しの本音は聞けたんだ、それだけで充分だろう?」
ティエドールの主張を理解はできる。
しかしコムイの表情は強張ったものだった。
「それは随分と甘い話ですよ、元帥。このことをルベリエ長官が耳にしたら、貴方も神田くんも許しはしないでしょう」
「うん、だよねぇ。彼怖いもんねぇ」
「…元帥」
「だから君に頼んでるんだよー。これは此処だけの話にしよう♪ってね」
「元帥っ……ああもうッ」
堪らず頭を抱えるコムイは、いつもの余裕の残る態度など欠片も見当たらない。
年齢も経験値も上であるティエドールの前では、教団の最高責任者であっても転がされてしまうのか。
どうにもコムイにとっても望む結果が出てしまった今回は、ティエドールの方が一枚上手らしい。
(この人のこういう所、本当クロス元帥そっくりなんだから!)
掴み所のない策士者。
わしわしと頭を掻きながら、コムイは何度目になるかわからない溜息をついた。
夜更けに話があると、コムイの所へふらり訪れたティエドール。
何かと思えば彼が見せてきたのは、専用ゴーレムに記録された映像。
独房の扉の小窓の外からひっそりとゴーレムが記録していたのは、神田と雪の聞いたことのない本音だった。
薄暗くアングルも限られた中、よくは見えなかったが声は届いた。
神田に涙ながらに共に生きたいと懇願し、ノアであることを認めて細部まで伝えた雪の声。
それを一字一句取り零すことなく、拾い集めた神田の応え。
それにコムイは驚いた。
幼い頃から彼らを知ってはいたが、そんな彼らの知らない一面を知って。
そして二人の声に嘘偽りなどないことも、すんなりと確信した。
伊達に長年、彼らを傍で見てきてはいない。
そしてそれはティエドールも同じなのだろう。