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My important place【D.Gray-man】

第44章 水魚の詩(うた)



ぐっと唇を閉じるコムイに、ティエドールは穏やかな表情を浮かべたまま。
その目は肩に乗る、小鍋のような自身の通信ゴーレムに向いた。



「ただ、"このこと"も考慮に入れて欲しい。結果良ければ全て良し、だよ」

「…今回が、偶々そういう結果だっただけです。上手く転ばなかったらどうするつもりだったんですか」

「勿論、君の指示に全て従うつもりだったよ。抗議なんてしない」

「…ですが貴方は元帥だ。神田くんもセカンドエクソシスト。それだけの逸材を僕の権限で失うことなんてできない。…それもわかっていたのでは?」

「私にそんな大層な価値があるとは思っていないよ。ただのしがない聖戦の残党だ」

「…っ」



それは貴方の言い分なだけです、という言葉はぐっと呑み込む。
ティエドールはコムイが室長に任命される前から、エクソシストとして聖戦の第一線で戦ってきた者。

言葉の重みが違う。



「神田だってそうだ。あの子が一番、自分に立場も価値も求めていない。君達が惜しむことを、あの子は簡単に切り捨てられるだろうね」



セカンドエクソシストとしての立場も。
聖戦での価値も。

朗らかだったティエドールの表情が、不意に切り替わる。
それは神田やマリの父親としての愛情満ちた顔ではなく、師という立場での冷淡な顔だった。



「そんな彼が彼女を求めた理由はなんだと思う?」

「……他人の心なんて説けませんよ、僕は」

「うん、そうだね。それは私も同じだ。神田ユウの心も、月城雪の心も私達には説けはしまい。それは彼らだけにわかることだ」



肩に乗るティエドール専用の通信ゴーレム。
他のゴーレムよりずんぐりと大きな体をしたそれは、比例した大きな一つ目を、きょろきょろと彷徨わせていた。
ぽん、とティエドールの手があやすように乗れば、忽ちOFFへと切り替わりすとんとその目を閉じる。
寝入るように電源を切るゴーレムを、もう一度ぽんぽんとティエドールの手があやす。

愛機の仕事は終わった。
その目に記録したものを、今此処でコムイに見せることができたのだから。

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