My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
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薄明りの灯る一室。
普段は複数の人影が常に在るその部屋に、今は二つの人影しかない。
室長机の前で両手を組み、椅子に座っている人物が一人。
部屋の中央にあるソファに深く腰掛けている人物が一人。
「───とまぁ、こんな感じかなぁ。どう?」
「…はぁあぁああ…」
ソファに座った人物がにこにこと笑って尋ねれば、組んだ両手の下に頭を下げて項垂れる、椅子に腰掛けた人物。
元帥が一人、フロワ・ティエドールと、黒の教団科学班室長のコムイ・リーである。
「全く…何やらかしてるんですか、ティエドール元帥…」
「ええ~?私は何もしてないよ~。したのはユーくんだよ~」
「わかりきっていて発破かけたのは元帥です」
「発破なんてかけてないよ?」
「煽ったんですから同じです」
「あっはっはっは」
「笑って誤魔化さない!」
にっこにっこと朗らかに笑うティエドールに対し、仏頂面でバン!と机をコムイが怒り任せに叩く。
此処は夜中の司令室。
夜通し起きていたのか、怒りも相俟ってコムイの目は据わっていた。
「はは、ごめんごめん。煽ったというより背を押したつもりだったんだけどね…確かに彼の行動は私の責任だ。然るべき処罰は私が受けよう」
対して穏やかなティエドールには、悪びれた様子がない。
何もかも受け入れる覚悟のある態度だ。
だからこそ責めようにも責められない。