My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「なんでわかるのかって?ヤダ~、アンタ達のランドセル時代から見てるってのに。わかるわよぉ」
ランドセルなんて背負ったことねぇよ。
ヤダわこの子ったら!なんて片手振って言うジェリーは、近所のうざ絡みしてくるババアにでもなってるつもりか。
…いや、オヤジか。
「そういえば雪ちゃん、最近めっきり食堂に来てないものねぇ。任務で怪我でもしたの?」
「……大したもんじゃない」
不思議そうに問いかけてくるジェリーに、引き攣っていた表情が止まる。
エクソシストと上層部以外は、雪のノアのことは誰も知らない。
それはジェリーも例外じゃないはず。
「フーン。じゃあ神田が面倒を看てあげてるってことね」
「…………まぁ、」
間違ってはいない。
この変に鋭いオカマに、下手に演技するのは逆効果だと、渋々頷く。
と、忽ち目の前にある厳つい顔が、にんまりと気持ち悪いくらいに笑顔を見せた。
「"まぁ"ですって!ヤダん、お熱いこと♡でもこんな夜中に女の子に夜食だなんて、あまり良い気遣いでは───」
「……んだよ」
るんるんと鼻歌混じりに忠告してくる声が、ぴたりと止まる。
じろじろと俺の顔を見…って近ぇよ、色々。
「あらま、夜這いしたの?お盛んねぇ」
「はぁッ!?」
「だってアンタ、やけにすっきりした顔してるもの。いいわねぇ~若いわねぇ~♡」
「ち…違ぇよ!」
いや、違ってはいない。
ジェリーの言うことは正しい。
だからってここで肯定してやる気はない。
つーか死んでもするか!
「別に恥ずかしがることないでしょ?男と女、愛する者同士が同じ空間にいれば必然的に起こることでしょーよ」
「それはテメェの勝手な憶測だろ!」
「そんなツヤッツヤな血色良い顔してんのに。説得力ないわよ」
「んな顔してねぇよ!」
「してるわよ。アンタはランドセル時代から知ってるって言ってんでしょ。お酒せびりに来た時は辛気臭~い顔してたのに。随分とまぁ可愛い顔に戻ったじゃない」
「それは…っ抱えてた問題が解決しただけだッ」
完全に解決した訳じゃない。
だが自分がすべき答えは見えた。
見透かすジェリーを負かす上手い言い訳が見つからなくて、苦し紛れに出たのは本音。