My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
厨房から届く調理の音を耳にしながら、誰もいない食堂で一人待機。
ふと持ってきてしまった手元の数珠に視線を落とす。
「………」
あいつは、まだこれを身に付けようと思ってくれているのか。
「───あらん?また来たの?」
じっと数珠だけを見て考え込んでいたから、そいつの気配に気付くのが遅れた。
時間は経っていたのか。
顔を上げれば、でかい米袋や紙袋を担いだジェリーの姿が映る。
「もう飲み終えちゃったの?あれ。ホント酒豪になったわねぇ~」
「…酒をせびりに来たんじゃねぇよ」
「ま。そうなの?」
飯を貰いに来たと伝える前に、厨房の音で気付いたんだろう。
「ヤダー。こんな夜中にご飯?太るわよぉ~ニキビできちゃう!」
「………」
俺は思春期の女か。
「人の勝手だろ」
「夕食ならきちんと食べてたじゃない。あれじゃ足りないの?」
「うるせぇな。詮索してくんな」
「ま!教団の料理長というもの、団員の食習慣を把握しておくのは当たり前のことよ!相変わらず感じ悪いわねっ」
テメェは相変わらず気色悪いな。
筋肉盛りの体クネらせて抗議してくんなオカマ野郎。
ジェリーはコムイに似て掴み所のないうざったさがある。
相手するだけ時間の無駄だと無言で顔を逸らせば、ドサリと米袋をカウンターに置く音。
それから、ぬっと影が視界に被さった。
「っ!?」
視線を上げれば目の前にジェリーのドアップ。
「あ。もしかして雪ちゃん絡み?」
そこに驚き声を上げる間もなく、更に驚くことを的確に突いてきた。
「なん…だ、急に」
「だってホラ。その数珠、雪ちゃんのでしょ?」
どうにか動揺を隠して返せば、サングラスの奥の目が俺の手元に向く。
指されたのは、持ってきていた枷の数珠。
……これは俺の数珠だ。
「ンン、違ったわね。雪ちゃんにあげた数珠でしょ?」
「………」
…………こいつ、本当にどこからどこまで見透かしてんだよ。