My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
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「おい」
「あれ?どうしました、こんな夜更けに…夜食ですか?」
「ああ。一人分頼む」
「はーい。ええっと、いつもの蕎麦でよろしいですか」
「いや。それ以外で」
「へえ?じゃあなんにしましょう?」
「………」
「神田さん?」
人気のない食堂のカウンターで、問われた内容に返事が止まる。
雪はなんだったら食べるのか、咄嗟に何も思い付かなかった。
あまりに貧相な体に放っておけず、だがあんなパサついた料理を食わせる訳にもいかない。
昔も食えなくなった時、雪はジェリーの飯なら食えるようになったと言っていた。
それを思い出せば、気付けば足は自然と食堂に向いていた。
なのに肝心のジェリーの姿が見当たらない。
「ジェリーはどうした」
「料理長ですか?明日の材料を調達に、食材倉庫に行ってますが」
「チッ」
「…あのう…料理長の料理がよろしければ、お待ち頂かないと…」
「いや、いい。急いでる。用意してくれ」
「へえ。じゃあなんにしましょう?」
「………」
「…神田さーん…?」
なんで肝心な時にいねぇんだよ。
再び沈黙を作ってしまえば…こいつも調理人なんだろう、男が困ったようにカウンター越しに笑いかけてくる。
仕方ねぇ。
「……日本食」
「へえ。和食ですか。神田さん日本人ですもんね」
「………」
咄嗟に思い付いたのは、辛うじて知り得ていた雪の国籍。
俺は日本人じゃない。
そもそも造られた体の俺に、国籍なんてない。
日本人ってのは黒の教団で通してる、ただの偽造国籍だ。
「胃に優しいもんを頼む」
「へえ?」
「なるべく食べ易いもので。スープも欲しい」
日本云々の話題は無視して話を進める。
水や血は飲み込めたんだ。
液体化したもんなら、雪も食べられるかもしれない。
早口に告げれば、男がどこか興味ある顔で首を傾げた。
「ええっと……それ、神田さんが食べるんで?」
「悪いかよ」
「いえっ」
ギロリと睨めば、お待ち下さいとだけ声を上げて厨房に引っ込む。
カウンターに背を預けて、溜息をついた。