My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「な…なんか今日のユウ、凄く、その…」
「変だって言いたいのか」
「そうじゃない、けど…いつものユウより…その、なんか…」
膝の上で俺の腕に抱かれたまま、雪の体がそわそわと落ち着きなく身を捩る。
口篭る声はきちんと発してこない。
だが言いたいことはわかる。
俺自身、耐性がないって思ってんだから。
でも悪いな、今日はどうにも譲ってやれそうにない。
「お前、馬鹿だな」
「んなっ」
「一度お前を見失ったんだ。もうこうして触れることもないかもしれないとも思った。でも今はこうして俺の腕の中に捕まえていられてる。求めずにいる方が無理だろ」
「…っ」
肩から顔を離して、間近で雪の目を捉えたまま告げる。
俺の本音。
求められないと思ったもんが、今は俺の目の前にあるんだ。
一回じゃ足りない。
もっと雪を感じて、浸っていたい。
「しっかり刻み付けていたいんだよ。俺のことも、雪のことも。それこそひとつになるくらいに」
「ユ…え、あ、あの…っ」
腰を抱いていた手を、上着の隙間に差し込む。
びくりと反応は見せるものの、身を捩る程度で膝の上から逃げ出そうとはしない。
それだけの抵抗なら良しと取るからな。
逃げるなら本気で逃げろ。
じゃねぇと止められる自信なんてない。
「待って…っ」
「…雪」
止めようとしているのか、俺の腕を掴む雪に問いかける。
「最後までシていいんなら、お前の中に刻み付けたい。…駄目か」
「…っ」
俺の本音だ。
だからお前も本音で返せ。
そう目で訴えれば、雪の目の奥が揺れた。
上気した顔で、ふるりと肌を震わせて。
暗い瞳の奥が俺を求めるように、微かな欲を生む。
「…駄目…じゃ、ないよ…」
泣き出しそうな震える声が、肯定の意思を示す。
やっと素直さを見せ始めた雪の欲に、ぞくりと首の後ろが粟立つ。
…言ったな。
もう止められねぇからな。
視線は交えたまま、ゆっくりと僅かな距離を縮めて唇を重ねた。
受け入れるように微かに開く唇の隙間に、舌を伸ばして。
くちゅりと静寂に鳴る音が、合図。