My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「───どうだ。落ち着いたか」
「…ん」
数十分後。
悪戦苦闘した結果、どうにか吐き気を落ち着かせ、雪は飲み込んだものを嘔吐せずに至った。
裸の体に俺の上着を羽織らせて、ベッドに座らせたまま水を注いだコップを差し出す。
俺自身も下半身だけ身に付けるもんを身に付けて、隣に腰掛けて安心の溜息。
流石に今のは焦った…。
「ったく…まさか飲むとはな…」
「…ユウが突っ込むからでしょ」
「……悪い」
コップに口をつけながら主張してくる雪の訴えは、どこをどう捉えても俺が悪い。
素直に謝罪すれば、何故かその顔は笑顔。
「…何笑ってんだよ」
「ううん」
不意の笑顔の意味がわからず問えば、砕けた表情で笑う。
何阿呆な顔で笑ってんだと思えば、あっけらかんと伝えてきたのはあまりに予想外な言葉。
「食欲はないけど、ユウのものなら食べられるんだなぁって。なんとなくそう思っただけ」
……は?
「お、前…」
何、言ってんだ、こいつ。
「…言ってる意味わかってんのか…」
あまりに予想外過ぎてあまりに不意を突かれて、飾り気のない雪の言葉は俺の中に真っ直ぐに落ちてきた。
あまりに真っ直ぐ過ぎて、顔が熱くなる。
この感覚は知ってる。
バレンタインのお返しに何が欲しいと聞けば、俺が欲しいと寝惚けながら雪が求めた時と同じだ。
俺のものならって…食べるとは違ぇだろソレ。
あんなもん食べ物なんかじゃねぇよ。
そう突っ込みたいのに突っ込めない。
絶対に赤いだろう顔を隠す方で精一杯で。
片手で顔を掴んで余所を向けば、満面の笑みで雪は顔を寄せてきた。
近付くな覗き込むな。
嫌がらせか。
「わかってるよ。それだけユウの存在は私には大きなものなんだなぁってことでしょ」
だから、こういう時に限って素直になるんじゃねぇよ。
…やっぱ嫌がらせか。