My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「は…雪…」
乱れた髪が雪の顔を覆って、よく見えない。
快楽に浸っている雪の顔が見たくて、身を寄せると顔を覆っていた髪の束を指先で払いのけた。
「は…ッは……」
見えたのは、浅く早い呼吸を繰り返しながら宙を見上げる虚ろな顔だった。
両眼の端にじんわりと溜まっていた涙が、頬を滑り落ちていく。
同じく半開きに開いた口の端から、粘着質のある透明な体液が音もなく零れ落ちた。
火照った顔に、額や首筋に浮かぶ真珠のような汗粒。
初めてこの独房に踏み込んだ時は、幽霊みたいな今にも倒れそうな、生気の見えない顔をしていた。
それがここまで淫靡で本能的な顔を晒している。
愛しいと思う。
俺が与えた快感で、俺にだけ晒しているあられもない姿が。
俺の為に咲いている蜜の溢れ滴る花のようで、誘われるように気付けば顔を寄せていた。
「ん…む…っ」
浅く呼吸を繰り返している雪の口元に垂れた唾液を、ゆっくりと舐め取る。
そのまま舌を差し込んで咥内を犯してしまいたい欲を抑えて、そっと唇を重ねた。
呼吸はできるように余裕を持たせて、何度も口付ける。
愛しい想いは止まらず目の前の体を抱きしめれば、密着した体で気付いたんだろう。
「っはぁ…ユ…なん、で」
まだ余韻で虚ろな表情をしていたものの、事態を把握した目が動揺しながら問いかけてきた。
雪の言いたいことはわかった。
まだ治まりのつかない俺の半身に驚いてるんだろ。
俺もイきたかったんだよ。
でもイけなかった。
「…雪が足りない。まだ感じていたい」
まだ雪の中を感じていたい。
まだそこに浸っていたい。
そう思えば抜いて果てることも、中で欲望を吐き出すこともできなかった。
「ユウ…待、って…私、今は…」
「次は優しくする」
できる限り、だけどな。